俺が中学生の頃、町内会で肝試し大会をやる事になった。
本当は小学生だけなんだけど、弟は小学生だったので一緒に参加する事に。
肝試しっても、山奥とか廃屋とかじゃなくて、町内にあるお寺のちょっと広い墓地を一周するだけという簡単なもの。
結局、俺は裏方で・・・幽霊役を任される事になった。
子供たちがいっぱい来るので、本気で怖がらせてやろうと意気込んだ。
他の幽霊役の女の子とかは浴衣着て、赤い絵の具で口から血を流してるようにしたり、包帯ぐるぐる巻きやら、マントはおったりやら、西洋っぽいのもいる。
まあ、町内会ですから。
俺はというと、考えたあげく家にあった銀色の宇宙人のマスク。
地球に不時着した宇宙人が、帰れずに遠く離れた星で死んだという設定である。
宇宙服はダンボールで作った黄金聖衣。
我ながら素晴らしいと自画自賛。
あとは肝試し本番を待つだけだ。
そして、夜8時になり肝試し開始。
俺はみんなと離れた、墓石と墓石の間に身を潜めた。
あっちこっちで悲鳴が聞こえる。
絶叫する子もいるみたいだった。
俺のとこに来た子供らも、もの凄い勢いでびっくりしていた。
幽霊役はかなりおもしろい。
しばらくして、一通り参加者も途絶えた頃、ふと気づいた事が。
ちょっと離れた、10mぐらいの距離の墓のところに人影を発見。
幽霊役だろうけど、あんなとこに誰か居たっけか?と考えた。
だがその人影は何かがおかしい。
まず、そこは肝試しのコースではない。
そこで待つ意味が無い。
それと、幽霊役はみんな子供だったのに、人影は明らかに大人であった。
墓石の高さと比べても、当時中学生だった俺より大きい。
俺はその人影をじっと見つめた。
すると、俺のそばを親子連れが通りかかった。(参加者)
我に返った俺は、取り敢えず「うおおー!」と脅かして、親子連れをやりすごして再びさっきの人影に目をやった。
が、そこに人影は無かった・・・。
一瞬で消えてしまった・・・。
間違いない、この墓地に眠ってる人だ。
俺は瞬時に理解した。
本物を見てしまった俺は、さすがに怖くなって逃げようとした。
だが、恐怖で足が動かなかった。
墓石に目が釘付けの状態で動けなかった。
すると、墓石から黒いものが出てきた。
スーっと浮き上がるように、黒い人影が出てきた。
「き、来た!」
俺は恐怖のあまりその場にへたりこんだ。
墓石から出てきた人影に目を奪われ、その場から動けない。
ちょうどその時、雲の切れ間から月が顔を出し、人影を照らした。
女だった。
髪の毛はそこそこ肩ぐらいまで。
若い女だった。
そして、その女がこちらを振り向いた。
さすがに心臓が止まるかと思った。
今までに味わった事のない恐怖。
女は数歩だけ俺の方に進みだしたかと思うと、ぴたりと止まり、再び闇に姿を消した。
俺はダッシュでみんなのところに戻った。
これまでの事を話したが、「幽霊が幽霊怖がってどうする」などと笑われ相手にしてくれなかった。
以上で終わり。
人相はよく見えなかったけど、消える間際になんか笑ってたみたいだった。
悪い霊とかそんなんじゃなく、子供たちがキャーキャーしてるのを見て楽しんでいるような印象を受けた。
せっかく静かに眠っていたところを起こしてしまったみたいで、今思うとなんだか申し訳なくなってしまった。