おまえ、罰が当たるぞ

カテゴリー「心霊・幽霊」

私の大学の友人Oは昔からいたずらっ子だった。
座敷の掛け軸にクレヨンの色を加えてオリジナルアートにしてみたり、ガラスの花瓶をろうそくの火であぶって真っ黒にしたりと、周囲からしてみたらハタ迷惑だが、まぁつまり知的好奇心いっぱいの子供だったのだ。
少なくとも当人に悪気はまったくない。

Oが小学校に上がったばかりのある日のこと、曽祖父の法要が彼の自宅で行われた。
親戚一同が集まり、厳粛とした空気の中で行事はとりおこなわれた。
同年代のいとこたちなども集まったが、Oは大勢で遊ぶのが苦手なタイプだったので、彼らの遊とのびにはまったく興味を示さなかった。
ただ一つ、幼いOの心を捕らえたものは・・・ポックポックポックポック・・・。
そう、木魚である。

Oは寺の住職が納経の間に刻む、その妙なリズムの虜になっていたのである。

ぼくも叩いてみたい・・・。

Oは激しい行動欲にかられた。
しかし、『おそらく怒られるだろう』と、その程度の判断はできる年齢になっていたのだ。

『そうだな・・・みんながお座敷からいなくなるまで待とう』

Oは大人たちの隙を伺うことにした。
そして、Oの願いが曽祖父に届いたものか、ついにそのチャンスがやってきた。

墓参りに行くために全員が席を立ったのだ。
もちろんOも参加せねばならないので、親に連れ出されたが、「おトイレ」とうまく抜け出して、仏前に戻ることができた。
ついにその瞬間がやってきたのだ。

ポックポックポックポック・・・。

住職と同じリズムを刻んでみた。
欲求が満たされてゆく快楽をOは感じた。
しかし、もちろんこれだけでは収まらなかった。

ポックッポクッポックポック、、、ポクポクポクポクポクポク、、チーンチーン、ポクポクポクポクポクポク、、、チーンチーンチチーンチーン・・・。

破目をはずしたOは、木魚を叩きまくった。
心の命ずるままに・・・。

ところが・・・「これ!遅いと思ったら、なんてことしてるの!!!」と、やっぱり母親に見つかってしまったOであった・・・。

母親によって見つけられたOは父親の前に引き出され、以前からのいたずらの数々も含めて、たっぷりと叱られた。

元々ある程度叱られることは覚悟をしていたOだったので、さほどはこたえなかった。
その様子を見たのか、彼の父は最後にこう言った。

「おまえ、罰が当たるぞ」

その夜・・・。
法要やその後のゴタゴタも終わり、客がみな帰った時、退屈で疲れ果てていたOは既に寝入っていた。
母が運んだものか、起きた時には部屋のベッドの中にOはいた。

起きたと言うよりも、厳密に言うと何かの気配に起こされてしまったのである。
Oは初め、母が自分の様子を見に、階段を上がって来たのだと思った。
足音がゆっくり上がってくる。ところが、足音は中途で止まった。

『あれ?止まった・・・?』

半分寝ぼけながらもそう思った瞬間、彼の身体を電気が走り、指一つとして動かせなくなった。
生まれて初めての金縛りに遭ったのだ。

そして、チリ~~~ン・・・。

透るような鈴の音が階段から響いた。

チリーーン

チリーーーン

チリ~~ン

鈴を手にした気配の主は足音もなく、だが確実にOの部屋に近づいてきた。
一歩一歩階段を踏みしめているようだ。

そのくらいの速度だった。
2Fには他にも部屋があったのだが、Oは確信していた。

『ばちだ!ばちがあたったんだ!くる!くる!くる!』

階段を上がりきり、鈴の音はOの思ったとおりまっすぐ彼の部屋に向かってきた。

ちり~~ん

鈴の音は、彼の部屋の前で止まった。

もう一度、部屋の前で鈴が鳴った。
そして、鈴の音の主はドアを開くこともなしにOの部屋への侵入に成功した。
透き透ったのである。

『本物だ!本物だ!でた、でた、でた、こわい、こわい!』

金縛りのため、Oは身動き一つとれない。

目は動くけれども、どういうことか、つぶろうという気にはならなかったという。
幽霊は、小学一年生のOより、さらに小さく見えた。
ぼんやりとした光に包まれている。
序序にベッドの方へと近づく・・・。

ベッドの正面まで来たとき、その姿がはっきりと見えた。
それは・・・小さな女の子だった。

腰近くまでの黒髪、かわいらしい和服・・・。
一瞬だけでは日本人形と見分けがつかない。

いや、むしろ生きた人形だったのかもしれない。
もちろん怖かったが、Oはその幽霊の姿に魅入ってしまった。
しばらく・・・と言っても4、5秒だが静寂が続く。

チリ~~~ン

最後の鈴が鳴り、女の子は闇にかき消されるようにして消えた。
金縛りが解けたOは、眠ることもできずに、そのまま朝まで布団にもぐりこんで震えていた。

朝が来て、Oは家族に真夜中の出来事を話した。
もちろん誰も信じてはくれなかった。

「罰があたったんだよ」

その一言で全て片付けられた。
果たして、あれは幻だったのだろうか。
先祖の霊が少女の姿を借りて、彼を戒めに訪れたのだろうか。

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