人間を使った不幸避け(後偏)

カテゴリー「怨念・呪い」

※このお話には前編【不幸を避けるために取った手段(後偏)】があります。

まーちゃんとは絶対に遊んではならないと言われた遊びが2つあった。
一つは、かごめかごめ。
元は人買いの歌らしいし、そういうのもあってダメだったのだろう。
もう一つはかくれんぼ。
これは逃走防止の観点から?

また、まーちゃんは家から一定の範囲以上は出てはならなかった。
ただし、高祖父が共にいる際は多少の外出は可能で、一度旅行もしたことがあるという。
家の女の子のために、家には高価なお雛様が一式あったが、それらは一家で一つの扱い。
ただまーちゃんには別に、なんとも簡素で、お内裏様とお雛様だけなのだが、別にもらっていたのだと。

旅行中に高祖父から、「絶対にまーちゃんから目を離すんじゃないぞ。失ったらお前が死ぬんだからな」と何度も脅すように忠告されていたのが怖かったらしい。

まーちゃんが亡くなったのは、祖父の話の時点では曖昧だったが、祖父妹曰く、確実に高祖父が亡くなるより少し前だったという。
また、高祖父が病で寝たきりになっている時、まーちゃんは常に傍に居なければならなかったのだと言う。
まーちゃんはこの時ばかりは、高祖父が怖くて仕方が無かったと聞かされたようだ。

で、高祖父自体は普段はまーちゃんにとても優しかったのだと。
その高祖父だが、祖父妹を始め、実の孫や実子にはものすごく厳しい人で、まーちゃんに優しいのは不自然過ぎるほどだったのだと。
高祖父は亡くなる直前にも伏せていたが、その時もまーちゃんは傍に居続けた。

ある日、まーちゃんは祖父妹に、「ごめんね。もう遊べない」と伝えた。
まーちゃん自身とても苦しそうだったようだ。
それから、まーちゃんは同じ家の中にいるのに会うことすら出来なくなった。
暫くしてまーちゃんが亡くなり、続いて高祖父も亡くなったという。

この時点では、俺は、まーちゃんは高祖父の苦しみを吸い取り続けたけど、とうとう吸いきれずに死んでしまい、そして依り代の無くなった高祖父もまた、すぐに死んでしまったのだろうな、と考えていた。
厳密には、違ったわけだが・・・。

話も色々聞いたし、次男さんからは、鶴じいさんより前の人たちの話も、僅かながら聞けた。
祖父兄(本家の当主)からも話を聞けた。

ちなみに、ちーちゃん、まーちゃんの墓には、ちーちゃん、まーちゃん以前にも、同じように不幸の肩代わりをしていた養女たちが眠っているのだと。
そして本家の者に許可をもらっていない者たちが墓参りをしてはいけなくなった理由は、ちーちゃん、まーちゃんやそれ以前の少女たちは、その周辺の土に念がまだ居ついているのだと言う。
だから、勝手に墓に参ると、それらの念が憑いてしまい、彼女たちがあの世に持っていった不幸が乗り移ってしまうのだとか。

当主に限っては、彼女たちは「畏(おそ)れるから」念が意図的に抑えられ、憑くことが無いのだとか。
もうちょい詳しく聞きたかったが、ここらで他のおっさんらが絡んできてここまでだった。

そもそも移転前は普通にその墓も墓参り出来たというから、単に祖父兄が勝手に信じ込んでいるだけの話なんじゃないかとも思ったがね。

後は、今そのような子供がいないが、どうしているのかという話。
何故現代ではそれをしなくなったのかと言うと、信仰心が薄れたのもあるが、そもそも身代わりが他に見つかったのだと言う。
それが、先ほど話したお雛様。
同じタイプのお内裏様とお雛様を数年おきに買い替え、前のものはお寺に持っていくことで、不幸の依り代の代わりにしているのだという。
そしてそれは今もやっているとのことで、件のお雛様は・・・かつて、まーちゃんが過ごしていた部屋にあるらしい。
後で見せてもらった。

お雛様というか、お雛様の衣装を纏ったこけし型人形というか、そんな感じの簡素な奴。
内裏雛以外は無く、1~3段くらい。
飾ってあった部屋は、別に離れ的な場所にあるわけでなく、奥まった場所にあった以外は普通の小さな和室。
ただ、使ってない感バリバリで、霊感のある奴が来たら「なんかあるな」と感じれるような雰囲気があった。
もっとも、俺には霊感無いからそんなものは感じなかったわけだが。

そもそも、まーちゃんが来る30年程前に、少女を貰い受けて不幸避けとする伝統は終わったらしい。
当時亡くなった子供たちを最後に、代替手段の無いまま、「現代には迷信的過ぎる」と廃止になった。

今から数えて、100何年か前。
ド田舎でも人身売買やらは縮小の傾向にあった時期なんじゃないかなあと思うし、そりゃ当然だろう。
廃止したのが、先に出た鶴じいさんだったようだ。
鶴じいさんは、当時の本家の当主であったその親父(俺から見てひぃひぃひぃひぃひぃ祖父さん)が、次の少女を早くもらおう、というのに対し、強硬に反対、とうとう絶対権力者の父親の反対を押し切って、この制度を終わらせ、少女の貰い受けをしなくなったらしい。

本家の仏壇には戒名表みたいなのがあって、そこに家の故人の戒名がズラズラッと並べてあった。
本名も併載していた気がするので、だいたいそこで鶴じいさんの存在も発見したわけだが、鶴じいさんの親父は、一時廃止前後に亡くなっていた。
100歳越えてたようだ。

その時点で鶴じいさんも70~80ってとこだから、いつまでも迷信にこだわるボケジジイに頭抑えられていて、しかも小さな女の子を犠牲にするようなシステムの存続をしろってんだもの、そりゃ反対もしたくなっただろう。

ただそれだけで無く、若い頃は自分の奥さんがこの役を受け入れさせられそうになったことも、鶴じいさんが反対する原因だったようで。
鶴じいさんが若い頃なんだが、鶴じいさんの親父は一度再婚したらしい。
そして、奥さん側には2人の男女の連れ子がいて、姉は鶴じいさんと同世代、弟もすぐ下って感じだったようだ。
前に鶴じいさんが付近一帯で相撲の名人だったと話したよな?その義弟もアマチュア相撲、やっていたそうだ。
だから、鶴じいさんと義弟はすぐに打ち解け、鶴じいさんは相撲の師匠にもなってやったんだとか。

ところがだ。
暫く経った頃、鶴じいさんがまた町の相撲大会で優勝したんだと。
その時、負けた奴が酒飲んで、暴れ回ったんだと。

そしてあろうことか、刃物まで持ち出して、とうとう鶴じいさんの家に乗りこんで、顔なじみでもあった義弟を刺し殺してしまったらしい。
当然そいつは逮捕されたが、鶴じいさんは超ショックだったようだ。
相撲やめたかどうかは聞いてなかったけどな。
まあ何も言ってなかったけど、そこまでいけばやめたんじゃない?

更にその後、立て続けに後妻さんまで亡くなったらしい。
特にショックだったのが、鶴じいさんの父親、つまり当主さんだったらしい。
その後なんやかんやで、養子とした娘(姉弟の姉の方)を不幸避けの少女役にしようとしたそうな。元からそのつもりだったのか、後からそうしようとしたのかはしらんけどな。

しかしながら、鶴じいさんは猛反対。
なんとか父親の企みを止めるためにとったのが・・・。
義妹と結婚して、次期当主の嫁として、手出し出来ないようにしたんだと。
結局その時は、別の少女を他所から貰うことでコトが済まされたようだ。

時期的に考えて、おそらくその後も、何度か少女の移り変わりはあったんだと思う。
それが何故100年前のタイミングで、鶴じいさんが反対したのかは知らない。
おそらく、当主が100にもなって、今更止める力も無いとの判断だったからだろう。

その後、30年経った時期に復活したのは、やはり、その辺りに身内に不幸が続出したからなのだとか。
正確にはその間10年ほど前の時期にも、曽祖父のお兄さんに当たる人が子供が無いまま亡くなり、更に2~3年のちにはその奥さんも死んでしまったとか。

その上更に次の跡継ぎまで・・・となれば、高祖父が制度を一度だけ復活させたのも止む無しという感じかもしれない。
もし、お雛様による代替まじないが無かったら、今でもそういう娘がいたり、あるいは無理に廃止して親戚一同死人ばかりになっていたかもしんない。
ちなみに、鶴じいさんの親父と鶴じいさん自体、制度廃止から数年と持たず亡くなったのだとか。
まあ、高齢者と超高齢者なんだし、そこまで行けばそりゃ単なる偶然だと思うがな。

「千代」「万里」と言う名前は、「千」「万」がつくからそう名付けたようだ。
かつて同じように不幸避けとして貰われた子も、「千歳」「万紀」などのように、千や万がつく名前だったらしい。

二人のうち、必ず「千」の名前をつけられた方が短命だという。
「万」の子一人が生きているうちに、「千」の子2~3人が相次いで亡くなることもあったそうだ。
いずれにせよ、30まで生きることは少なくともなかったらしい。
そのことは、一帯を仕切るお寺さんでも熟知していたらしく、代々に伝えられていたのだとか。

子供は、可能なら近所から、そうでなければ遠方の人身売買斡旋商?やらから貰い受ける。
その中での条件は、「健康でなく、病弱で、失っても働き手としては痛手にならない子」だったそうだ。

そうした理由は、元々病弱な子は不幸の気を身にまとっているため、当主たちにとって罪悪感が薄れるからというのと、相手方も、健康な働き手を失うことなく、子を差し出せるというものからだったと。
ただ、何世代か一度、健康な子を欲しがることもあったのだと言う。
その時は、身内の不幸が余りにも多い場合など。

70年前もそうした理由で、千代と万里という、健康な子供を、貰い受けたのだと言う。
元はどこからの子で、なんという名前だったかは、高祖父しか知らない。
まーちゃんと遊んだ祖父妹も、その名前だけは、教えてくれなかったらしい。

さて、ここが一番恐ろしい話なんだが・・・上で書いた通り、長生きする方であるまーちゃんでも、30までは生きない。
前のちーちゃんが亡くなったのは6歳かそこらだし、2~3倍しても20かそこらで亡くなってしまう計算だから、妥当なとこだろう。

実は、いずれの不幸避けの少女たちも、養父に当たる歴代の当主が亡くなるより前に、必ず亡くなっている。
そして、新しい不幸避けの少女は、新しい当主が、改めて迎えている。

では、当主より先に、必ず不幸避けの少女が(病死などの形で)自然死するだろうか?
ま、確率的に言えば、低いわな。
少女はまだ若く、当主はジジイなんだから。

オカルト的な何かが働いているとしたら、先に書いた通りそう思ったんだけど、ありえるんじゃないかとは考えた。
ところがだ、実際はもっと現実的な意味で怖い話だったわけ。
当主がいよいよ亡くなるって頃になると、ひっそりと当主の手によって、少女たちは葬られるらしいんだわ、恐ろしいことに。

それで逮捕されるなんてこともなかったみたいだから、警察も暗黙の了解だったのか、それともバレない方法で殺ったのかは知らんが・・・。

そりゃまあ、鶴じいさんのような経歴や動機が無くても、嫌がるんじゃないかと。
何せ、自分の手で少女たちを殺める必要にかられるんだからな。
多分、前のまーちゃんも、高祖父自身が手を下したんじゃないかな・・・。
そう思うと、マジでぞっとした。
僅か数代前の先祖が、そういったことをやっているんだからな。

その話だけは、祖母妹も知らなかったらしく、曾祖母が直接教えてくれた。
ただ、話聞く限り、餓死とか薬盛ったとか、そういうやり方だったんだと思う。

話の後、さっきも書いた通り雛人形の部屋に連れて行ってもらえたんだが、少女たちのお墓にはとうとう連れて行ってもらえなかった。

それからまた数年。
今は曾祖母も祖父の兄も亡くなってしまった。
その後は親父の従兄弟、つまり祖父の兄の息子さんが跡を継いで、まだお墓の管理もやっているらしい。

あれ以来本家にも行っていないが、多分、雛人形を使った不幸避けは続いているんだろうな。
いつかそれが、また実の人に戻ってしまわないよう願うばかりです。

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