弟の友人の話。
友人の実家は田舎の古い大きな家で、奇妙な話も幾つかあったそうだ。
ある夜、家族で一階にいると、電話が掛かってきた。
時刻は夕飯を食べ終わった後位。
もう外は暗くなっていた。
お父さんが廊下に出て電話を取りに行ったそうだ。
電話の相手はお父さんの古くからの友人で、今夜訪ねて来るという。
この人は一人旅が好きな人で、しょっちゅう海外に出かけては時々ふらりと帰って来て、みやげ話をさかなに一杯という人。
今度はカンボジアだったか、ベトナムだったかから帰ってきたから、今からその足で家に寄る・・・ということだった。
時間を気にしない人だったので、子供やお母さんは待っていても仕方がないと言う事で、皆二階に寝に行った。
お父さんは一人で応接間に酒とかを運び込み、友人を待っていた。
お母さんによると、その晩は結構遅くまで半分起きていたけれど、気が付いたらいつの間にか一階からお父さんの話す声が聞こえていたという。
静かなので、二階でも一階の音が聞えるのだ。
ただ玄関を開ける音が聞こえなかったそうで、何時の間に来たのだろうと思ったそうだ。
次の朝、お母さんが一階に降りてみると、お父さんは応接間で眠りこけていた。
ところがどうも、お酒は二人分用意されていたが、お父さんが一人で飲んでいるうちに酔いつぶれて寝てしまったように見えた。
本当に昨晩訪ねてきたのだろうか?
実際玄関を開ける音もしなかったし、そういえば一階からはお父さんの声しか聞こえなかった。
酔いすぎて、夢を見ていたのではないのか?
ところが起きたお父さんは、「絶対来た」という。
間違いなく昨日玄関まで迎えに行ったし、ここで酒を飲みながら話した。
それに、旅先であった出来事も聞いたのだという。
そしてその夜、また電話が掛かってきた。
今度はお母さんが電話に出たのだが、その友人が、旅先から帰って来たので今晩訪ねたいという。
「え、昨日訪ねてきませんでしたか?」と聞いたら、もちろん行っていない、そもそも今帰って来たばかりだし、電話も今掛けたのだという。
どういう事だろう・・・。
昨日の電話はお父さんが取るところを皆見ている。
あれもお父さんの勘違いだったのだろうか?
夕食後そんなに酔っていただろうか?
でもそれなら帰ってくる事が分かること自体おかしいのではないか?
そして奇妙な事に、その晩訪ねてきた友人が写真を出すと、お父さんがことごとく昨日の晩聞いたという詳しい話をしたという。
お父さんも友人も真に迫っていて、全然悪戯をしている感じではなく、結局それが何だったのかは分からないままだそうだ。
でも私はふと思う、実際に誰かが訪ねてきたのではないか?と。