※このお話はリアル(第二話)の続きで、全三話あります。
俺の動きが止まり、仏間に入ろうとする両親と祖父母の動きが止まった事を確認するかのように、少しの間を置いてからS先生が話し始めた。
S先生:「Tちゃんごめんなさいね。怖かったわね。もう大丈夫だからこっちに戻ってらっしゃい。Iさん、大丈夫ですからもう少し待ってて下さいね」
障子(襖だったかも)の向こうから、しきりに何か言ってのは聞こえてたけど、覚えてない。
血を拭いながらS先生の前に戻ると、手拭いを貸してくれた。
お香なのかしんないけど、いい匂いがしたな。
ここに来てやっと、あの音はS先生が手を叩いた音だって気付いた。(質問出来る余裕は無かったけど)
S先生:「Tちゃん、見えたわね?聞こえた?」
俺:「見えました・・・『どーして?』って繰り返してました」
この時にはもう、S先生の顔はいつもの優しい顔になってたんだ。
俺も今度はゆっくりと、出来るだけ落ち着いて答える事だけに集中した。
まぁ・・・考えるのを諦めたんだけどね。
S先生:「そうね。どうして?って聞いてたわね。何だと思った?」
さっぱり分からなかった。
考えようなんて思わなかったしね。
俺:「??・・・いや・・・、ぅぅん?・・・分かりません」
S先生:「Tちゃんはさっきの怖い?」
俺:「怖い・・・です」
S先生:「何が怖いの?」
俺:「いや・・・、だって普通じゃないし。幽霊だし・・・」
ここらへんで、俺の脳は思考能力の限界を越えてたな。
S先生が何を言いたいのかさっぱりだった。
S先生:「でも何もされてないわよねぇ?」
俺:「いや・・・首から血が出たし、それに何かお札みたいなの捲ろうとしてたし。明らかに普通じゃないし・・・」
S先生:「そうよねぇ。でも、それ以外は無いわよねぇ」
俺:「・・・」
S先生:「難しいわねぇ」
俺:「あの、よく分からなくて・・・すいません」
S先生:「いいのよ」
S先生は、俺にも分かるように話してくれた。
諭すっていった方がいいかもしれない。
まず、アイツは幽霊とかお化けって呼ばれるもので間違いない。
じゃあ所謂悪霊ってヤツかって言うと、そう言いきっていいかS先生には難しいらしかった。
明らかにタチが悪い部類に入るらしいけど、S先生には悪意は感じられなかったって言っていた。
俺に起きた事は何なのかに対してはこう答えた。
S先生:「悪気は無くても強すぎるとこうなっちゃうのよ。あの人ずっと寂しかったのね。『話したい、触れたい、見て欲しい、気付いて気付いてー』って、ずっと思ってたのね。Tちゃんはね、分からないかもしれないけど、暖かいのよ。色んな人によく思われてて、それがきっと『いいな~。優しそうだな~』って思ったのね。だから、自分に気付いてくれた事が、嬉しくて仕方なかったんじゃないかしら。でもね、Tちゃんはあの人と比べると全然弱いのね。だから、近くに居るだけでも怖くなっちゃって、体が反応しちゃうのね」
S先生は、まるで子供に話すようにゆっくりと、難しい言葉を使わないように話してくれた。
俺はどうすればいいのか分からなくなったよ。
アイツは絶対に悪霊とかタチの悪いヤツだと決めつけてたから。
S先生にお祓いしてもらえばそれで終ると思ってたから・・・。
それなのに、S先生がアイツを庇うように話してたから・・・。
S先生:「さて、それじゃあ今度は何とかしないといけないわね。Tちゃん、時間かかりますけど、何とかしてあげますからね」
この一言には本当に救われたよ。
あぁ、もういいんだ。
終るんだって思った。
やっと安心したんだ。
S先生に教えられたことを書きます。
俺にとって一生忘れたくない言葉です。
S先生:「見た目が怖くても、自分が知らないものでも、自分と同じように苦しんでると思いなさい。救いの手を差し伸べてくれるのを待っていると思いなさい」
S先生はお経をあげ始めた。
お祓いのためじゃ無く、アイツが成仏出来るように。
その晩、額は裂けてたし、よくよく見れば首の痕が大きく破けて痛かったけど、本当にぐっすり眠れた。(お経終わってもキョドってた俺のために、笑いながらその日は泊めてくれた)
翌日、朝早く起きたつもりが、S先生はすでに朝のお祈りを終らしてた。
S先生:「おはよう、Tちゃん。さ、顔洗って朝御飯食べてらっしゃい。食べ終わったら本山に向かいますからね」
関係者でも何でもないんで、あまり書くのはどうかと思うが少しだけ。
S先生が属している宗派は、前にも書いた通り教科書に載るくらい歴史があって、信者の方も修行されてる方も、日本全国にいらっしゃるのね。
教えは一緒なんだけど、地理的な問題から東と西それぞれに本山があるんだって。
俺が連れていってもらったのが西の本山。
本山に暫くお世話になって、自分が元々持っている徳(未だにどんなものか説明できないけど)を高める事と、アイツが少しでも早く成仏出来るように、本山で供養してあげられるためってS先生は言ってた。
その話を聞いて一番喜んだのが祖母。
まだ信じられなそうだったのが親父。
最後は、俺が「もう大丈夫。行ってくる」って言ったから反対しなかったけど。
本山に着くと迎えの若い方が待っていて、S先生に丁寧に挨拶してた。
本堂の横奥にある小屋(小屋って呼ぶのが憚れるほど広くて立派だったが)で本山の方々にご挨拶。
ここでもS先生にはかなりの低姿勢だったな。
S先生、実は凄い人らしく、望めばかなりの地位にいても不思議じゃないんだって後から聞いた。
俺は本山に暫く厄介になり、まぁ客人扱いではあったけど、皆さんと同じような生活をした。
多分、S先生の言葉添えがあったからだろうな。
その中で自分が本当に幸運なんだなって実感したよ。
もう四十年間ずっと蛇の怨霊に苦しめられている女性や、家族親族まで祟りで没落してしまって、身寄りが無くなってしまったけど、家系を辿れば立派な士族の末裔の人とか・・・。
俺なんかよりよっぽど辛い思いしてる人が、こんなにいるなんて知らなかったから・・・。
厳しい生活の中にいたからなのか、場所がそうだからなのか、あるいはS先生の話があったからなのか、恐怖は大分薄れた。(とは言うものの、ふと瞬間にアイツがそばに来てる気がしてかなり怯えたけど)
本山に預けてもらって一ヶ月経った頃、S先生がいらっしゃった。
S先生:「あらあら、随分良くなったみたいね」
俺:「えぇ、S先生のおかげですね」
S先生:「あれから見えたりした?」
俺:「いや・・・一回も。多分成仏したかどっかにいったんじゃないですか?ここ、本山だし」
S先生:「そんな事ないわよ?」
顔がひきつった。
S先生:「あら、ごめんなさい。また怖くなっちゃうわよね。でもねTちゃん、ここには沢山の苦しんでる人がいるの。その人達を少しでも多く助けてあげるのが、私達の仕事なのよ」
多分だけど、S先生の言葉にはアイツも含まれてたんだと思う。
S先生:「Tちゃん、もう少しここにいて勉強しなさい。折角なんだから」
俺はS先生の言葉に従った。
あの時の事がまだまだ尾を引いていて、まだここにいたいって思ってたからね。
それに、一日はあっという間なんだけど・・・何て言うか、時間がゆっくり流れてような感じが好きだったな。(何か矛盾してるけどね)
そんなこんなが続いて、結局三ヶ月も居座ってしまった。
その間S先生は、こっちには顔を出さなかった。(二ヶ月前に来たきり)
やっぱりS先生の言葉がないと不安だからね。
でも、哀しいかな、流石に三ヶ月もそれまで自分がいた騒々しい世界から隔離されると、物足りない気持ちが強くなってた。
実に二ヶ月ぶりにS先生がやって来て、やっと本山での生活は終りを迎えようとしていた。
身支度を整え、兎に角お世話になった皆さんに一人ずつ御礼を言い、S先生と帰ろうとしたんだ。
でも気付くと、横にいたはずのS先生がいない。
あれ?と思って振り向いたら、少し後にいたんだ。
歩くの速すぎたかな?って思って戻ったら、優しい顔で「Tちゃん、帰るのやめてここに居たら?」って言われた。
実はS先生に認められた気がして少し嬉しかった。
俺:「いや、僕にはここの人達みたいには出来ないです。本当に皆さん凄いと思います。真似出来そうもないですよ」
照れながら答えた。
S先生:「そうじゃなくて、帰っちゃ駄目みたいなのよ」
俺:「え?」
S先生:「だってまだ残ってるから」
また顔がひきつった。
結局、本山を降りる事が出来たのは、それから二ヶ月後だった。
実に五ヶ月も居座ってしまった。
多分、こんなに長く、家族でも無い誰かに生活の面倒を見てもらう事は、この先ないだろう。
S先生から、「多分もう大丈夫だと思うけど、しばらくの間は月に一度おいでなさい」と言われた。
アイツが消えたのか、それとも隠れてれのか、本当のところは分からないからだそうだ。
長かった本山の生活も終って、やっと日常に戻って来た。
借りてたアパートは母が退去手続きを済ましてくれていて、実家には俺の荷物が運び込まれてた。
アパートの部屋を開けた時、何かを燻したような臭いと、部屋の真ん中辺りの床に小さな虫が集まってたらしい。
怖すぎたらしく、その日はなにもしないで帰って来たんだってさ。
翌日、仕方無いんで、意を決してまた部屋を開けたら、臭いは残ってたけど虫は消えてたらしい。
母には申し訳ないが、俺が見なくて良かった。
実家に戻り、実に約半年ぶりくらいに携帯を見ると物凄い件数の着信とメールがあった。
中でも一番多かったのが徳永。
メールから、奴は奴なりに自分のせいでこんな事になったって自責の念があったらしく、謝罪とか、こうすればいいとか、こんな人が見つかったとか、まめに連絡が入ってた。
母から徳永が家まで来た事も聞いた。
戻って二日目の夜、徳永に電話を入れた。
電話口が騒がしい。
徳永は呂律が回らず何を言っているか分からなかった。
・・・コンパしてやがった。
とりあえず電話を切り、『殺すぞ』とメールを送っておいた。
所詮世の中他人は他人だ。
翌日、徳永から『謝りたいから時間くれないか?』とメールが来た。
電話じゃなかったのは、気まずかったからだろう。
夜になると、家まで徳永が来た。
わざわざ遠いところまで来るくらいだ。
相当後悔と反省をしていたのだろう。
玄関を開け徳永を見るなり、二発ぶん殴ってやった。
一発は奴の自責の念を和らげるため、一発はコンパなんぞに行ってて俺を苛つかせた事への贖罪のめに。
言葉で許されるよりも、殴られた方がすっきりする事もあるしね。
まぁ、二発目は俺の個人的な怒りだが。
徳永に経緯を細かく話し、その晩は二人して興奮したり怖がったり・・・今思うと当たり前の日常だなぁ。
徳永からは、あの晩のそれからを聞いた。
あの晩、逃げたした時には、林は明らかにおかしくなっていた。
林の車の中で友達と待っていた徳永には、まず間違いなくヤバい事になっているって事がすぐに分かったそうだ。
でも、後部座席に飛び乗ってきた林の焦り方は尋常じゃ無かったらしく、車を出さざるを得なかったらしい。
徳永:「反抗したりもたついたりしたら、何されっか分かんなかったんだよ」
徳永の言葉が状況を物語っていた。
徳永は、車が俺の家から離れ高速の入り口近くの信号に捕まった時に、逃げ出したらしい。
徳永:「だってあいつ、途中から笑い出したり、震えたり、『俺は違う』とか『そんな事しません』とか言い出して怖いんだもんよ」
アイツが何か囁いてる姿が甦ってきて、頭の中の映像を消すのに苦労した。
俺の家に戻って来なかったのは、単純に怖すぎたからだって。
「根性無しですみませんでした」って謝ってたから許した。
俺が徳永でも勘弁だしね。
その後、林がどうなったかは誰も知らない。
さすがに今回の件では徳永も頭に来たらしく、林を紹介した友達を問い詰めたらしい。
結局、林は詐欺師まがいにも成りきれないようなどうしようも無いヤツだったらしく、唆されて軽い気持ち(小遣い稼ぎだってさ・・・)で紹介したんだと。
徳永曰く、「ちゃんとボコボコにしといたから勘弁してくれ!」との事。
でも、こんな状況を招いたのが自分の情報だってのには参ったから、今度は持てる人脈を総動員したが・・・。
こんなことに首を突っ込んだり聞いた事がある奴が回りにいるはずもなく、多分とか~だろうとかってレベルの情報しか無かったんだ。
だから、『何か条件が幾つかあって、偶々揃っちゃうと起きるんじゃないか』としか言えなかった。
その後、俺はS先生の言い付けを守って、毎月一度S先生を訪ねた。
最初の一年は毎月、次の一年は三か月に一度。
徳永も俺への謝罪からか、何も無くても家まで来ることが増えたし、S先生のところに行く前と帰ってきた時には、必ず連絡が来た。
アイツを見てから二年が経った頃、S先生から、「もう心配いらなそうね。Tちゃん、これからはたまに顔出せばいいわよ。でも、変な事しちゃだめよ」って言ってもらえた。
本当に終ったのか・・・俺には分からない。
S先生はその三ヶ月後、他界されてしまった。
敬愛すべきS先生、もっと多くの事を教えて欲しかった。
ただ、今は終ったと思いたい。
S先生のお葬式から二ヶ月が経った。
寂しさと、大切な人を亡くした喪失感も薄れ始め、俺は日常に戻っていた。
慌ただしい毎日の隙間に、ふとあの頃を思い出す時がある。
あまりにも日常からかけ離れ過ぎていて、本当に起きた事だったのか分からなくこともある。
こんな話を誰かにするわけもなく、またする必要もなく、ただ毎日を懸命に生きてくだけだ。
祖母から一通の手紙が来たのは、そんなごくごく当たり前の日常の中だった。
封を切ると、祖母からの手紙と、もう一つ手紙が出てきた。
祖母の手紙には、俺への言葉と共にこう書いてあった。
『S先生から渡されていた手紙です。四十九日も終わりましたので、S先生との約束通りTちゃんにお渡しします。』
S先生の手紙。
今となってはそこに書かれている言葉の真偽が確かめられないし、そのままで書く事は俺には憚られるので、崩して書く。
『Tちゃんへ
ご無沙汰しています。
Sです。
あれから大分経ったわねぇ。
もう大丈夫?怖い思いをしてなければいいのだけど・・・。
いけませんね、年をとると回りくどくなっちゃって。
今日はね、Tちゃんに謝りたくてお手紙を書いたの。
でも悪い事をした訳じゃ無いのよ。
あの時はしょうがなかったの。
でも・・・、ごめんなさいね。
あの日、Tちゃんがウチに来た時、先生本当は凄く怖かったの。
だってTちゃんが連れていたのは、とてもじゃ無いけど先生の手に負えなかったから。
だけどTちゃん怯えてたでしょう?
だから先生が怖がっちゃいけないって、そう思ったの。
本当の事を言うとね、いくら手を差し伸べても見向きもされないって事もあるの。
あの時は、運が良かったのね。
Tちゃん、本山での生活はどうだった?
少しでも気が紛れたかしら?
Tちゃんと会う度に、先生まだ駄目よって言ったでしょう?覚えてる?
このまま帰ったら酷い事になるって思ったの。
だから、Tちゃんみたいな若い子には退屈だとは分かってたんだけど、帰らせられなかったのね。
先生、毎日お祈りしたんだけど、中々何処かへ行ってくれなくて。
でも、もう大丈夫なはずよ。近くにいなくなったみたいだから。
でもねTちゃん、もし・・・もしもまた辛い思いをしたら、すぐに本山に行きなさい。
あそこなら多分Tちゃんの方が強くなれるから、中々手を出せないはずよ。』
S先生の手紙の続き
『最後にね、ちゃんと教えておかないといけない事があるの。
あまりにも辛かったら、仏様に身を委ねなさい。
もう辛い事しか無くなってしまった時には、心を決めなさい。
決してTちゃんを死なせたい訳じゃないのよ。
でもね、もしもまだ終っていないとしたら、Tちゃんにとっては辛い時間が終らないって事なの。
Tちゃんも本山で何人もお会いしたでしょう?
本当に悪いモノはね、ゆっくりと時間をかけて苦しめるの。
決して終らせないの。
苦しんでる姿を見て、ニンマリとほくそ笑みたいのね。
悔しいけど、先生達の力が及ばなくて、目の前で苦しんでいても何もしてあげられない事もあるの。
あの人達も助けてあげたいけど・・・、どうにも出来ない事が多くて・・・。
先生何とかTちゃんだけは助けたくて手を尽くしたんだけど、正直自信が持てないの。
気配は感じないし、いなくなったとも思うけど、まだ安心しちゃ駄目。
安心して気を弛めるのを待っているかも知れないから。
いい?Tちゃん。決して安心しきっては駄目よ。
いつも気を付けて、怪しい場所には近付かず、余計な事はしないでおきなさい。
先生を信じて。ね?
嘘ばかりついてごめんなさい。
信じてって言う方が虫が良すぎるのは分かっています。
それでも、最後まで仏様にお願いしていた事は信じてね。
Tちゃんが健やかに毎日を過ごせるよう、いつも祈ってます。
S』
読みながら、手紙を持つ手が震えているのが分かる。
気持ちの悪い汗もかいている。
鼓動が早まる一方だ。
一体、どうすればいい?まだ・・・、終っていないのか?
急にアイツが何処かから見ているような気がしてきた。
もう、逃れられないんじゃないか?
もしかしたら、隠れてただけで、その気になればいつでも俺の目の前に現れる事が出来るんじゃないか?
一度疑い始めたらもうどうしようもない。
全てが疑わしく思えてくる。
S先生は、ひょっとしたらアイツに苦しめられたんじゃないか?
だから、こんな手紙を遺してくれたんじゃないか?
結局・・・、何も変わっていないんじゃないか?
林は、ひょっとしたらアイツに付きまとわれてしまったんじゃないか?
一体アイツに何を囁かれたんだ。
俺とは違うもっと直接的な事を言われて・・・、おかしくなったんじゃないか?
S先生は、俺を心配させないように嘘をついてくれたけど、『嘘をつかなければならないほど』の事だったのか・・・。
結局、それが分かってるから、S先生は最後まで心配してたんじゃないのか?
疑えば疑うほど混乱してくる。
どうしたらいいのかまるで分からない。
ここまでしか・・・俺が知っている事はない。
二年半に渡り、今でも終ったかどうか定かではない話の全てだ。
結局、理由も分からないし、都合よく解決できたり、何かを知ってる人がすぐそばにいるなんて事は無かった。
何処から得たか定かではない知識が招いたものなのか、あるいは、それが何かしらの因果関係にあったのか・・・。
俺には全く理解できないし、偶々としか言えない。
でも、偶々にしてはあまりにも辛すぎる。
果たして、ここまで苦しむような罪を犯したのだろうか?犯していないだろう?
だとしたら・・・何でなんだ?不公平過ぎるだろう。
それが正直な気持ちだ。
俺に言える事があるとしたらこれだけだ。
「何かに取り憑かれたり狙われたり付きまとわれたりしたら、マジで洒落にならんことを改めて言っておく。最後まで、誰かが終ったって言ったとしても、気を抜いちゃ駄目だ」
そして・・・、最後の最後で申し訳ないが、俺には謝らなければいけない事があるんだ。
この話の中には小さな嘘が幾つもある。
これは多少なりとも分かり易くするためだったり、俺には分からない事もあっての事なので目をつぶって欲しい。
おかげで意味がよく分からない箇所も多かったと思う。
合わせてお詫びとさせて欲しい。
ただ・・・、謝りたいのはそこじゃあない。
もっと、この話の成り立ちに関わる根本的な部分で俺は嘘をついている。
気付かなかったと思うし、気付かれないように気を付けた。
そうしなければ伝わらないと思ったから。
矛盾を感じる事もあるだろう。
がっかりされてしまうかもしれない・・・。
でも、この話を誰かに知って欲しかった。