17歳で結婚して、19歳の今・・・。
生まれて6ヶ月の娘がいる。
夫は貨物船の船員で、数ヶ月家に帰ってこない。
世間は慌ただしく何かと手伝いに呼び出されることが多いが、今日はとりあえず1日何も予定は無い。
天気も良いし、なんだかうきうきしてくる。
「おにぎり持って、お散歩に行こうか」と、眠っている娘に声をかける。
おかずはたいした物がないけれど、外で食べればおいしい。
お弁当とお茶を持って、裏山を登る。
夏の日差しを木々がさえぎってくれて、案外快適だ。
時々、山の斜面の畑でご近所さんが畑仕事をしている。
「こんにちは~!!」
大きな声で挨拶すると、手を振って挨拶してくれる。
でも、なにもしないでぶらぶらしてるのが解ったらちょっと気まずいから、足早に上を目指す。
今日は色々サボってのんびりするんだ。
やっと目当ての頂上近くの野原に着いた。
ここからだったら、すり鉢状の市外がはっきり見渡せる。
谷の一番底では、川が流れていて、右手には港、水面がきらきらと光っている。
ちょっと手前の足下にはさっき挨拶したご近所さんの畑や、私の家も見える。
「ちょっと早いけど、お弁当食べちゃおうか」
野原の端にある、2階建ての家ほどもある大岩の影で休んだ。
日差しをさえぎってくれて涼しい。
まずは娘にお乳をあげて、おにぎりにかぶりつく。
やっぱり外の方がおいしいよ!
食べ終わって、幸せな気分に浸る。
娘もお腹いっぱいになったのか、膝の上ですやすや眠っている。
ふいに、背にしている岩の端から眼を射る白い閃光が走る。
続いて轟音と暴風!
いろんな物が体にたたきつけられる!
訳も解らないまま、膝の上の娘に覆いかぶさり丸くなる。
数分経ったのか、1時間ほど経ったのか・・・そろそろと立ち上がる。
お昼前なのに薄暗い・・・。
振り返ると、大岩が消えている・・・。
がっしりと大きくそびえていた大岩が、今では3メートルくらいに縮んでしまった?
まだ薄暗い、耳もおかしい・・・。
気がつくと、娘は日がついたように泣き叫んでいる。
ごめんね、気がつかなくて・・・。
おぼつかない足取りで、ついさっき街を見下ろした場所にたどり着く。
何も無かった。
おかしいおかしい・・・。
谷底がすべて灰色と黒に塗りつぶされ、煙と火がみえる。
おかしいおかしい・・・。
足下の畑も灰色でさっきまでいた人たちが消えている。
私の家も、建物自体がまるでもとから無かったかのように、ただの灰色の空間が広がっているだけだ・・・。
おかしいおかしい・・・。
全部消えてしまった・・・。
なにもない・・・。
1945年8月9日午前11時2分