多重人格者だった

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

うちの社名が変更になった時の話。

簡単に言うと商標ゴロにヤラレてただけなんだが担当者が俺になった。
とりあえず相手先企業の連絡先を調べてみると、新宿駅から徒歩数分程度のマンション。
あの辺のマンションはヤミ金と風俗の寮と893様のペーパーカンパニーの事務所兼チンピラ雑居房だらけだから、この時点で俺は「893様案件か・・・」とため息ばかりだった。

いざ弁護士と部下ひっ連れて乗り込むとヤクザのヤの字もない普通に生活痕のある住居。
弁護士は訴訟か取り下げかを迫った。
簡単に言うとすでに日本国内で著名となった権利者のある商標を他社や他人が勝手に出願した場合は
裁判には長い費用と関係者の疲労がつきまとうものの高い確率で無効になるんだ。
特にこの相手は類似した商品を売ってるわけでもなんでもないから確実に勝てる案件ということで弁護士はウキウキしてた。

数日後、俺が寝苦しくて自宅マンションで目を覚ますとなんかドアがどんどん叩かれてた。

「いつ勝ってくれるんですか?二敬遠です」

ん?野球やってんだ?

で、よく聞き直すと「いつ買ってくれるんですか?二京円です」

京なんて単位聞いたことないなあとか思った直後にねぼけから醒めてなんでこいつがドアの前にいて叫んでるんだと気づいてビビった。

数分後には他のマンションの住人から通報があったみたいで、ドアの前で警察と悶着から被害者からの聴取まで一連のコース体験。
まさか、あんな穏やかそうな人が豹変してあんな真似するとは思わなかった。

家?当然引っ越したよ。

で、引っ越してから二週間ほど平和だったんだが、唐突に受付から連絡があって俺を名指しで喚いてるというのがいる。

その日は警備に任せてシカトしといた。

だが数日後には会社から最寄り駅までの道にそいつがいて俺に気づくなり「いつ買ってくれるんですか?今なら99%OFFで200億円にまけておきますよ」っていいながら迫ってくる。

で自分から体当たりしてきて仰向けに倒れこむ。
でもって自分で頭を地面に打ちつけながら「いたーいひどーい!わーわー!おぎゃー」って。

もう、定時帰りのサラリーマン達がドン引き。
同じビルの連中が俺とそれを見比べるし、殴ってくるやつなら殴り返せば済むけどこれじゃ何やっていいかわからなくなるのな。

で、こいつが多重人格者だったってことがわかったのは893っぽい言葉遣いとグレーのスーツに紫色のシャツに黄色のネクタイ締めて来た時で、新しい家もバレて襲撃しに来た。

幸いうちのトイレは窓が割れる音に気づいて通報した俺を助けにきてくれるまで保つだけ頑丈だった。

何に使うか考えたくないノコギリやら窓割る道具やらぶちまけて、家の中で警官ととっくみあいはじめるからほんと怖かったわ。

おまえらも家選ぶときはどんなに部屋が狭くっても個室でドアが頑丈なトイレと管理人常駐のマンションを選べよ。

もう、そういう場所でしか暮らせない体になってしまった。

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