もう、5年か6年程前の話。
僕の家族は旅行が好きなんだ。
好きって言っても、父が仕事忙しい人だから、そんな頻繁に行ってるわけじゃないけど、毎年必ず2,3回くらい旅行してたんだ。
その年も行ってきたんだ。
東京・横浜・千葉のいろんなところを巡る旅行。
2泊3日で、1日目の夜は東京の親戚の家に泊まって、2日目の夜は横浜のとあるホテルで泊まる、ってことになってた。
僕の家族は、両親と僕と妹・それからまだ幼かった弟の5人。
ホテルの部屋は2部屋取って、両親と弟が3人で、僕は妹と一緒の部屋で一晩寝て、翌日横浜の中華街行って帰る・・・そんな感じだった。
ホテルの外観とかは悪くなかったけれど、部屋に入ると一瞬、”不気味”と何故か感じていた。
チェックインを済ませ、9階だったかの部屋までエレベーターで上り母に部屋のキーを渡されると、両親と弟は隣の部屋に入っていった。
ご飯はホテル入る前に済ませたし、小腹が空いた時のためにお菓子等も少しだが、一応買い込んである。
お風呂も済ませ、時計も10時を回った。
さぁ、そろそろ寝ないと明日起きれない・・・なのだが・・・僕は枕が変わると何故か寝つきが悪くなる。
ホテル泊まりが初めてじゃないとは言え、寝れないものは寝れないのだ。
今更だけど、当時の僕は中学生で妹は年子。
「ママ!おばけが怖いの、寝れないの!」なんて言う年頃でもない。
むしろ僕は幽霊だのお化け等を信じていない。
確かにホラー映画とかは怖いとは思うけど、あれは怖がるように作られているんだから”怖い”と感じるのは別に普通なんだ。
決して「幽霊が怖いと思う」=「幽霊を信じている」ではないと思うんだ。
前置きがとても長くなってしまった。
で、本題に戻ると・・・その日は、東京のいろんなところを見て結構疲れてた。
そのせいもあって、妹は11時頃にはとっとと夢の中だった。
何と無く、心細くてテレビをつけた。
面白いものはやってないかと思いチャンネルを回す。
すると面白そうなバラエティ番組が放送していたので、それを見ることにしたが、何故がベッドの前にある大きな鏡が気になる。
夜と鏡はあまり宜しくない組み合わせらく、鏡の自分と目を合わせぬように恐怖心を紛らわすためにテレビに没頭する。
鏡のことなどすっかり忘れていた。
幸運なことに、丁度スペシャルだったみたいで1時間では終わらず結構長いこと放送していた。
気が付けば時計は1時を過ぎた。
バラエティ番組がCMに入ると、よくわからないCMが流れた。
「なんだこれ?」と、何のCMか考えていると、あるホラー映画のCMだった。
バスに乗った男女2人、女が深刻な顔で男に何か相談している。(相談している内容はもう覚えていない。)
女がふいに窓に目をやると、追い越すトラックに女の幽霊の顔がボウッと現れ女が悲鳴を上げる・・・と、まぁこんな感じのCMだった気がする。
いつもならCMくらいでビビッたりしないのに、この時ばかりは本気でビビってしまった。
「せっかく恐怖感がなくなっていたのに・・・」
そう思いながら再び蘇った感情を消すために再びテレビに没頭するも、
しかし、蘇った感情はなかなか消えてはくれなかった。
時間だけが過ぎていく・・・・・・。
その時、コツン、コツン・・・・・・コツ・・・・・・。
何かが窓に当たる音がした気がした。
風か何か・・・小石でも飛んできたんだろう?
そう訳のわからない事を自分に言い聞かせる。
風がコツコツ言うわけもないし、真夜中に9階まで小石が飛ぶわけもない。
でもこのときはこう思うしかなかったんだ。
そうしないと怖かったんだ。
3、4回鳴ると音はいったん止んで一安心・・・と、思った時だった。
コツ、コツ・・・トントン、トントン・・・・・・ドンドン・・・。
何かが窓を叩く音がどんどん強くなってる・・・!!
”怖い!怖い!!”
そう思ってテレビを消した。
部屋の電気はつけっぱなしだった。
布団をかぶって、若干震えながらも羊を数え自分を無理矢理寝かしつけた。
母:「起きなさい!あと30分したら、バイキング行くよ!」
ハッと目が覚めた時は既に朝だった。
なかなか起きない僕たち姉妹を母が起こしにきたのだった。
母:「ちゃんと着替えて、荷物まとめて、カーテン開けて、ゴミは捨てて部屋を綺麗にしてから来るのよ。遅れると置いて行くよ。」
そう言うと母は部屋から出ていった。
目が覚めると夕べの出来事なんて綺麗さっぱり忘れていた。
ぼんやりしながら身体を起こす。
妹は寝つきもいいが寝起きもいい。
サッと起きるとササッと身支度を始め、部屋を出る準備をする。
遅れまいとダルイ身体を起こし、フラフラしながらカーテンを開けた。
見なければよかった。
本気でそう思った。
寝ぼけた頭が一瞬にして冷める光景だった。
窓には無数の手跡が残っていた。
それも、内側ではなく外側の窓に・・・。
このホテルにはベランダがない。
ベランダどころか、足場がない。
それに窓は押すタイプというのか・・・45度くらいしか開かない窓で、とてもじゃないが人がそこから出ていくのは無理だった。
それだけじゃない。
その手跡は何故か小さいものだった。
中学生にしては小柄の僕の手も結構小さいものだったが、それ以上に小さい。
まるで、幼稚園児か小学校低学年の子の手くらいの大きさ。
でも何故か指紋がついてない。
手跡はついてるのに指紋がついてない。
どう考えても説明のしようがない出来事に、血の気がひいて寒くなった。
今思い返しても、寒いのだが・・・それでも幽霊は信じない。
いや、信じたくない・・・。
これが僕の実際に体験した話です。
他人からすれば全然怖くないかもしれない。
だから・・・むしろ作り話であってほしいと、逆に思うくらいです。