俺も一つ心霊体験がある。
もう十数年近く前になるが、中学二年のときに丑の刻参りを見たことがある。
夏休み、三年生の先輩たちと塾をサボったのを皮切りに、カラオケなどで一通り遊び、残った俺とA先輩は真夜中に近所の神社に隣接する公園で時間をつぶしていた。
Aさんは酒やタバコなどのみ、上機嫌で他愛もない話をしていた。
ふとAさんが「なんかうるさいな・・・」、と言い出した。
俺は全く気づかなかったが、神社の方から音がするという。
Aさんは「見にいってみよう」と言い、俺は嫌々ながら後に続いた。
もう眠気半分で、正直帰りたかったのもあり、そんな音などどうでも良かった。
子供の頃から遊びなれていたこともあり、俺たちはこの辺りのことは知り尽くしていた。
広い公園の木々をくぐり、柵を越えて最短距離で神社へと忍び込んだ。
神社に近づくにつれ、俺にも音が聞こえてきた。
「カチカチカチカチ」と速く一定のテンポで何かを叩き合わせる音。
音は辺りに響くようなものではなく、硬いながらもどこか湿ったような音だった。
俺は直感的に[丑の刻参り]を思いだし、「これ何かヤバイ呪いしてんじゃないすか?」と先輩に言った。
先輩は、「俺もそう思う、だけどそんなの見たことねーよ、ちょっと行ってみよう」、と好奇心むき出しだった。
俺たちが身を隠せる範囲からギリギリまで音の元に近づいたとき、見えた。
総柄のワンピースの痩せ細った女が頭に何かを被り、その先に火の灯ったロウソクを立てている。
片手を大木に当てて、トンカチのようなもので木を叩いている。
よく怪談物にあるような、「コーンコーン」という音ではなく、「カチカチカチカチ」と速く湿った音だった。
俺たちは息を飲んでしばらくそれに見入っていたが、Aさんが突然こう言った。
Aさん:「あいつ、ふざけんなよ、俺らの地元で何やってんだ」
Aさんは突然女のもとに駆け出した。
慌てて転びながら俺が追い付く前に、Aさんは女に飛びげりを入れ、そのままめったうちに女を蹴った。
しかし、俺が追い付いた時にはAさんは攻撃の手を止め、茫然と立ち尽くしていた。
女はそれを見て走って逃げていった。
俺はほんのわずかに見えただけだが、女は髪が乱れ、一重まぶたで頬がこけた暗い印象の顔立ちだった。
近くで女を確認したAさんはこう言った。
Aさん「あれ、うちの近くのおばさんだよ、、、」
俺が聞き返すと、「おばさんはもう死んだんだよ・・・」と、要領をえない答えがかえってkた。
女はAさんの近所に住んでいた裕福な家の婦人で、半年ほど前に病気で亡くなった。
父が付き合いのあったAさん一家は皆で通夜に参列したらしい。
Aさんは、「間違いない、何でだよ」とガタガタ震えていた。
俺は女が打ち付けていた木を確認すると、そこには藁人形が錆びた釘で打ち付けてあった。
先輩が人形を木から外し改めると、人形の胴体部分に小さく畳んだ半紙のようなものが押し込められており、その紙には「○○○○○」と、知らない人名が書かれていた。
灯りが乏しかったので、はっきりとはわからないが、筆と墨でで書かれたようなものに思えた。
名前の回りには何語かわからないが、文字のようなものが規則的な配列で書かれていた。
後にして思うと、梵字のような形状にも思える字体だった。
Aさんは、「ありえねーよ、ありえねーよ」、と繰り返し、タバコをふかしていた。
俺はどうしたらいいかわからず、呆けていたが、先輩の、「このままここにいたら俺らまで呪われそうな気がする、バックレよう」、という提案に従い、その場を立ち去った。
釘と人形と上は拾って賽銭箱の隣に置いておいた。
朝、神主が気づいて何らかの処理を講じてくれるものと信じてのことだった。
後日、Aさんが家のアルバムから持ってきた夏祭りの記念写真で女とされる人物を確認した。
確かにあの女だった。
俺もAさんもその後は何事もなく、あれ以来神社には近づいていない。
無事に今日までいきている。
以上です。
文にすると矛盾だらけで盛り上がりもなく、あまり怖くない話かもしれないが、すべて本当にあった出来事です。
覚えている限り詳細に書いたつもりです。