ある国に、死を異常に恐れる男がいた。
特に男が恐れていたのは、「自分が埋葬された後に、棺の中で息を吹き返してしまうのではないか?」という不安だった。
そして、いよいよその男が臨終の床にあるとき、家族全員の前で棺の中に電話線を引き、息を吹き返したときには、確実に連絡が取れるようしてほしいと遺言を残し、亡くなった。
家族は半信半疑であったので、とても電話線まで棺に引くわけにはいかなかったが、故人の言うことであればとその男のいうとおりに電話だけは入れて埋葬することにした。
それから、葬式の後すぐに、遺族の住む家に奇妙な電話が入った。
内容は何を言っているのか聞き取れない上に、ザーザーと混線しているような音が混じっていた。
家族は「いたずら電話だろう」と思って電話を切ってしまった。
しかし、男に可愛がられていた孫だけは、「さっきの電話はおじいちゃんからの電話だよ!」と言ってきかなかった。
最初は家族も子供のたわごとだろうと思っていたが、あまりに孫が譲らないので男性が死んでいることを納得させようと墓を掘り返そうということになった。
結局墓を掘り返したのは、奇妙な電話を受けた1週間も後のことで、棺を開けた遺族達は仰天した。
棺のふたには無数の引っかき傷が残っており、男は家族全員を怨むような怒りの表情のまま息絶えていた。