隠れ里、とか、隠し里、などという場所が時折ある。
実際には「○○の隠れ里」などと言われ、所在のはっきりした場所になっていて、隠れ里どころではなく、それを売りの観光地になって賑わったりしている。
そんな隠れ里と呼ばれる場所の幾つかは実際に村の存在が判明せず、迷信と思われている所もあるようだ。
登山というより、ハイキングの好きな二人組みが、ある山間の地域で、この「隠れ里」の云われがある場所を目指して山に入った。
ただのハイキングコースで、無理なルートを取るわけでもなく、史跡のひとつでも有ればと気軽に歩いていた。
予報では晴天が続くとの事だったが、そこは山の天気。
幾つかの史跡らしきものを回って、そろそろ帰路につく頃になって、にわかに空が暗くなり、大粒の雨が落ちてきた。
雨具は用意していたものの、あまりの雨足に雨宿りをと思い、先ほど見てきた大きめの石碑にかかる屋根で雨宿りをする事にした。
5分ほど木々の中を歩くとすぐにその屋根は見えてきた。
雨の中を歩いたせいもあって、軒先で座り込むと眠気に襲われ二人して石碑にもたれてウツラウツラとし始めた。
しばらくすると、誰かの話し声に目が覚めた。
辺りを見回すと確かに誰かが居るのは解った。
あぁ、雨も止んだんだな・・・そう思って少し目を開けると、そこに数人の人影があった。
日はまだ高く時間は昼下がり。
ただ、鬱蒼と茂る木々の中なので人影は解っても詳細は見えない。
意識がはっきりしてくると妙な事に気づいた。
話し声は聞こえるのだが、その声は妙に甲高く意味が解らない。
それに、膝を抱えてうつむいてるのに人影の全体が解る。
ハッとなって顔を上げるとそこには、身の丈30cmほどの見るからに古めかしい格好をした農夫のような男性が3人立っていた。
立とうとしても体が重くて立ち上がれない。
コマ送りのように動く3人が自分達の周りをせわしく動いている。
得体の知れない恐怖が襲う。
盛んに棒切れを振り回してこちらに何かを訴えてくるようなのだが、早回しのテープのような声ではっきりとは解らない。
脂汗が止めどなく流れる中、その中の一人がツカツカと近づいてきた。
膝のあたりまで顔を近づけると、やはりテープの早回しのような声で何か叫んでいる。
ガタガタ震えていると、向こうは怒ったような顔で今度はゆっくりとこう言った。
「カ・エ・レ。デ・ネ・バ。ク・ラ・ウ・ゾ。」
その瞬間、意識が途切れた。
雨はあがり、嘘のように晴れ渡った空の下で目が覚めた。
嫌な夢を見た。
そう思って仲間を起こすと異常なほどに汗をかいて震えている。
「どうした?」
その声に飛び上がる仲間。
「あれは何だったんだ!?」
夢ではなく、やはり彼も同じものを見ていたのだ。
恐怖に駆られて立ち上がると一目散で元来た道を引き返して町まで帰った。
同じ状況で同じような幻覚でも見たのだろうと、山に慣れた二人は思ったのだが、帰りの車中で、膝に付いた小さな泥の手形を見て、心底震えたという。
隠れ里。
その昔、ごう病や奇形の血筋を持った者達が村から追い出され山中深くに人目を忍んで暮らした場所だとも聞く。
社会から忘れられた人達が今もひっそりと暮らしているのかも知れない。