僕が電話が苦手な理由(後編)

カテゴリー「不思議体験」

※このお話には【僕が電話が苦手な理由(前編)】があります。

受話器の向こう側からは何も聞こえない。
サー、という機械音がなるだけだ。
しばらく待ってみたが、プツっツーツーという音が聞こえ、切れてしまった。

「なあ、ただの偶然だったんじゃない?」

「・・・・・・・・・・・・」

トンネルの向こう側からクルマのライトが僕たちを照らし、駆け抜けていく。
そのライトのおかげで、今やっていることが妙に気恥ずかしくなった。

伊勢:「そうかも知れない。何だろうな、俺たち。バカみたいじゃないか」

伊勢が笑い、僕たちも笑った。
僕たちは、丸井が死んだことに対して何も出来ないことに、罪悪感を持っていた。
何かの理由をつけたかった。

ユーレイ何かいないって。
そんなもんにあの丸井がやられるわけねーじゃん。
ははは。

「リーん」

電話が鳴った。

僕たちはお互いの顔を見合わせ、黙った。
一番最初に動いたのは高島だった。

高島が受話器を取り耳に押し当てる。

「・・・・・・・・・・・・あ・・・ふ・・・か・・・・・・・・・・・・と・・・・・・・・・・・・つ・・・・・・あと・・・・・・か」

高島:「聞こえないって!もっと大きい声でいえよ!」

「・・・・・・あ・・・・・・・・・・・・・・・・・・か・・・・・・・・・・・・ふ・・・・・・・・・・・・あと、ふつか」

プツリと音を立てて電話が切れる。

天満:「後、二日か・・・・・・」

天満がそう呟いた。

高島:「二日って、バカこんなの信じてるの?俺があと二日で死ぬわけねーだろ!?なあ?」

誰に言っているのかは分からないが、高島はそう叫んだ。

天満:「そうだよな。ゴメン」

天満が謝り、僕と伊勢もそれに対して文句を言う。

「偶然だって」

「そうだよ、混線してるんだよきっと」

だよなあ、と言って僕たち四人は笑いあった。

二日後、高島は死んだ・・・。

高島の出棺の後、その足でたまり場となっているコンビニに向かう。
店長からタクシーの運転手のことを聞きだすためだ。

伊勢、天満、それと僕。
少し前までは五人いた仲間が三人。
ついこの前まであったものがない。
寂しいとか違和感とか、そういったものでなく、当たり前のものがない。
片腕と片足がなくなったようなものだ。
ちくしょう。

コンビニに着く。
店長は僕たちを見て、悲しそうな顔をした後、コーラを三つ差し出した。

店長:「残念だったな・・・・・・」

伊勢:「店長。タクシーのおじさんの連絡先知りませんか?」

店長:「ああ、この前の人か?知らないな。何か用事でもあるのか?」

伊勢:「公衆電話について聞きたいんです」

店長:「公衆電話か、あれなあ・・・・・・いや、いいや。分かった。今度来たらお前達にメールするよ」

今更だったが、店長と僕たちは携帯のアドレスを交換し合った。

一週間たっても二週間たっても連絡は来なかった。
僕たちはコンビニに行く習慣もなくなってしまった。

携帯がなる。

「いま、いるから」

伊勢だ。

そう言って、返事も聞かず電話を切った。

一人、自転車を走らせる。
もう何度この道を通ったのだろう。
この道を通るたびに友達が死んでいく。

ポツンとたたずむ公衆電話からの明かりだけがその道を照らす。
周りには何もない。
何もない?

誰も居なかった。

「リーん」

あの鈴の音のような、電話ベルの音が闇夜に鳴る。
公衆電話以外のものは暗くて見えないから、自然とその音の発信源に目を奪われる。
怖くて、足が、震える。

かちゃり、きい、と言う音が妙に響き、ボックスの中に入った。
ぱたり、と軽い音を立て扉が閉まった。

目の前で、りーんりーんとうるさくがなる電話。
僕は震える手でその受話器を持ち上げるが、耳につけられない。
ぼそぼそ、と言っている。

「・・・・・・ぃ・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

聞きたくない、聞きたくない。

空いたもう片方の手で、携帯電話を取り出し、伊勢に掛けようとする。

くそ、圏外だ、こんな時に!

ボックスから逃げ出そうと扉に手を掛けるが、びくともしない。
さっきはあれほど軽い音を立てたのに今度は壁にでもなったかのように全く動かない。

ぼそぼそ、受話器はずっと繰り返している。
もういいよ、助けて誰か。
バンバンと扉を叩く。
誰か、誰か!

ひた、ひた。

目線の先には足が見える。
とっさに顔を上げるが、顔が見えない。
助けてくれと叫ぼうとした、が、その足、その足は何も履いていなかったのに気付く。
山中を裸足で歩く人などいない。
さらにその白さに、助けを掛ける人間でないことを理解した。
恐怖した。

ぱん・・・・・・ぱん・・・・・・ぱん・・・・・・ぱん・・・・・・。

断続的に叩かれるボックスのガラス。
姿が見えない。
しかし、ぱん、という音がなる瞬間に、暗闇からにゅっと手のひらが現れる。

ぱん・・・・・・ぱん・・・・・・ぱん・・・・・・。

力なく窓ガラスを叩くような音。
目の前で鳴ったと思ったら、後ろで叩かれる。
色々な方向からぱん、ぱんと手のひらとともに音が鳴る。

異様に白い足、手。

見えるのはそれだけ、外は真っ暗闇で何も見えない。
ぼそぼそ、と受話器はまだ何かを続けている。
狭い空間でこんなこと、頭がおかしくなりそうだ。

足元の隙間から、妙に指の長い手のひらがすうっと入ってきた。
そして、すうっと引っ込む。
その手がまた入り、引っ込む。
一本、二本、回数を重ねるたびにそれは増える。

僕を探しているのか?

いやだいやだ!
手のひらに触らないように逃げる、避ける。
たくさんたくさんの手。
すうっ、すうっとたくさんの手が足元で現れ消える。

ぼそぼそ言う、受話器。

僕:「もう止めてください!ごめんなさい!」

とっさに返事をしてしまった。

僕を掴もうとしている手のひらがひゅうっと闇に引っ込んだ。

受話器から声が聞こえる。

「いまいまいまいまいまいまいまいまいま」

あぁぁだめだ、と情けなくも体中から力が抜けた。

その時、轟音が耳をつんざいた。
ばりばり、とガラスが砕ける音。
顔や服にガラス片が散らばる。

伊勢・天満がボックスを壊している。

伊勢:「おい!大丈夫か!?」

助かった、と思った瞬間僕はその場でへたり込んでしまった。

コンビニについて、落ち着いた僕は夏なのにホットコーヒーをすすりながら話をした。
しかし、二人と僕の話はかみ合わなかった。

二人によると僕がボックスの中で暴れているのが見えただけ。

伊勢:「人?手?知らない。」

そもそも伊勢は僕に電話などしていない。
確かに着信履歴に伊勢の名前はなかった。
大体、何故あの声が伊勢だと思ったのだろう。
妙に抑揚のない女のような声だったはずだ。

伊勢は天満と僕の家に行こうとした。
天満とは連絡が付いて合流したが、僕とは連絡が取れない、もしやと思い公衆電話に行ってみた。
着いてみると僕がボックスの中で暴れていた、と。
謎だらけの結末だった。

タクシーのおじさんは結局、二度とあのコンビニには来なかった。
何の意図であの話を僕たちに教えたのか、店長は知っているようだったが、教えてくれなかった。

あの声が耳から離れない。

僕は電話が苦手だ。

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