親父の実家がある九州に行ったとき。
当時、私は小学2、3年だったのだが自然の中で遊んだことがなく、親父に連れて行かれた原っぱを虫採り網を片手に突き進んでいた。
いわく、ここは親父の子供時代からあまり人が寄り付かない虫採りスポットとのことである。
一人で腰より高い草を掻き分けているときに唐突に目の前に地蔵が現れた。
今でもなんとなく覚えているけど、ぼろぼろで、ぱっと見、縦長の石ころなのだが、石の素材と赤い首かけ(ぼろぼろ)があったので地蔵だと思った。
その時、「カサカサカサ」という音がしたので地蔵から視線をはずして隣を見ると、そこに銅がさびたときの様な緑色をした顔が。
草の隙間から顔半分だけ出して片目で私を見ている。
本当に怖い時というのは声が出ないもので、私はしばらくその気持ち悪い顔と見詰め合ってしまう。
何もいわないし何もしゃべらない顔から背を向けて50mくらい離れたところにいる父親の元に駆け出そうとしたら、突然足首をつかまれた。
さすがに大声で叫んでしまって・・・後はよく覚えてないけど、何とか手を振り払って父親の元に走ったみたいだった。
「ああ、まだいたのか・・・。名前を言ったらついてくるから言うなよ」
そう親父が言った。
怖さよりも何よりも「そういうことは先に言え!」と思ったことが、今でも記憶に残っている。
もう親父も他界したので詳しいことは聞けないけど、生前「あれは狐に化かされたのだろう」と笑いながら言っていた。