1984年の早春、南アルプス前衛の甘利山にある椹池が突然干上がったことがあった。
その原因も不明だが、露わになった湖底中央部に錆びついた鉄剣が突き刺さっているのが発見された。
束の部分は切れてなくなっていたが、長さ40センチ、幅8センチもある大きな鉄剣で、それにしても一体誰が何の目的で、池の底に突き刺したのだろうか。
その十年後、テレビ番組でもこの鉄剣が取り上げられたことがあった。
それによると鉄剣は湖底の岩に突き刺してあり、剣の一部を採取して埼玉県埋蔵文化財センターで鑑定してもらったところ、奈良時代以前のものという結果が出た。
またその形状から日本刀ではなく、やはり鉄剣らしいということだった。
水に浸かっているから、意外と新しいものではないかと私は感じていたのだが、専門家によると水にずっと浸かっていれば、それほど古いものが残っていても不思議ではないという。
奈良時代ということは、山岳信仰と関係があるのだろうか。
それとも池に棲むと信じられていた何かを封じ込める意味でもあったのだろうか。
少なくとも当時、何らかの目的をもって椹池にやってきて、岩に鉄剣を突き刺した人がいたことだけは間違いない。