もう十数年前になる。
いつも一緒に学校から帰る、仲のいい友達Tとその日も道草を食いながら帰ってた。
その日は土曜の半ドンで、一斉下校だったから周りにぞろぞろ同小の人間が歩いてた。
けど、悪ふざけが過ぎる俺達は、気がつけばそんな集団から離れてぽつりと道端に二人きりになっていた。
田舎なので民家もぽつりぽつりとしかない田んぼに囲まれた道を猫じゃらしを持って歩き続ける。
そしたら急に、Tがその猫じゃらしを持った手を左のたんぼに向けて言った。
T:「なぁ、あの人どうやって歩いてんのかなぁ?」
俺はTの指差す方を見たが、誰もいない。
俺:「はぁ?どこ?」
T:「あそこ、Nくんのじーちゃんの田んぼの前くらいにおるやん、白い人が」
距離にして200mくらいだったか、俺の視力は両目とも2.0だったから見えないはずはなかった。
T:「おい、見に行こうぜ」
Tが嬉しそうに俺のランドセルをつかんだ。
けど、俺はなんだか無性に怖かった。
俺には見えない何かが怖かったのか、俺には見えない何かが見えているTが怖かったのか、説明できない妙な恐怖がわいてきた。
俺:「あ!俺お母さんにお使いたのまれてたんだ!急いで帰らなきゃ」
今時ありえないような言い訳をして俺はTの腕を払って駆け出した。
途中、一度だけ振り返ってTを見ると、田んぼと田んぼの間をすいすい歩いて、あの何かがいた方向に歩いて行っているのが見えた。
家に着いて昼ごはんを食べてファミコン(当時プレステは持っていたが、アナログな俺はファミコンが好きだった)をしているうちに、そんなこともすっかり忘れてしまった。
すると、夕方の4時過ぎてたかな?Tのお母さんから電話がかかってきた。
俺のオカンが出たんやけど、Tが俺ん家に遊びに来ていると思っていたようで、そろそろ帰れコールだった。
けど、その日Tは俺の家に来るどころか、あのたんぼで別れたきりだ。
結局、Tのお母さんは思い当たるところに電話をかけ続け、騒ぎを聞きつけた近所の人たちでTの捜索が始まったが、見つからず、7時過ぎに捜索願を出しにTの親が警察へ行った。
俺も最後にTと一緒にいたから、俺のオカンとついて行って、その時の状況も詳しく話した。
当然、田んぼの周りも捜索したけど、Tは見つかっていない。
んで、4年前にオカ板に漂流した俺は、くねくねの話を読んで衝撃を受けた。
もしかしたあの日、Tが見たのはこれだったのかもしれないと思った。
でも、くねくねならなぜ俺には見えなかったんだろう?
友達を見捨てて逃げた罪悪感は今でも残ってる。
でもあの時のTは止めても聞かないほど怖いくらいテンションが上がってた。
それも恐怖の一つだった。