現在、30過ぎの普通のサラリーマン。
学生の頃、経験したこの手の話を友達にしていたが、そういう相手も減ったのでこちらに投下してみようかと思う。
中学2年夏、俺は2階にある自分の部屋で一人眠りについていたが、突然、身体に異変を感じ眠りから覚めた。
というか、全身を見えない強い力で押さえ込まれて叩き起こされる感じ。
俺:「これ金縛り?!」
はじめての経験でパニック状態だった。
そんな状況から、数秒後、周りが薄明るくなり視界が広がる。
驚いたのだが、視界に入ってきたのは、仰向けで寝ているがための天井ではなく、寝ている部屋の扉が見えた。
金縛りで体は動かない。
仰向けで寝ている。
・・・にもかかわらず、なぜ、身体を起こした状態でしか見れないはずの扉が見えているのかは不思議だった。
さらに、その扉は透けて見え、先の廊下まで見えてしまうのだ。
何、この透視能力・・・。
しかし、この透視能力のようなものは、コントロール出来ない。
強制的に何かを見せようと、俺の意志には関係なく、身体をベッドに置いたまま、視界だけがどんどん先に進む。
幽体離脱かな?
廊下を通り階段を降りる。
そして1階の玄関前に到着したところで、画像は止まった。
その先に見えたものは、ほろ暗い玄関中央に女性の姿が静かに佇んでいた。
しかし、その女性は腰から下しか見えない。
なぜ女性と判別出来たかと言うと、青いスカートを履いていたからだ。
そしてそのスカートからは青白い足が・・・。
そしてそれら全てを暗い雰囲気で包んでいる。
俺:「あれ?幽霊て顔は見えても足はないんじゃなかったけ?これじゃあまるで逆だな」
などと冷静にその女性を見ていたのだが、この女性は何らかの意志により、俺を起こし、この現場を見せているのだろうと思うと、寒気を憶えた。
やがて、その青白い足は玄関から進みだし、階段を登ってきた。
その足は微妙に空中を浮いたままで、特に動かすことなく両足を揃えたまま、スーッと移動した。
その暗い雰囲気からは、決して好意的には感じられない。
俺は「自分の部屋には来ないでくれ!」と願っていた。
その幽霊は階段を登り終わると廊下を曲がり、こちらに向かってくる。
隣の妹の部屋にたどり着いた時に、薄情な俺は、「そこでストップ!妹の部屋へどうぞ!」何て祈っている。
まあ、当然ながら妹の部屋はスルー。
俺の部屋の前の扉で一旦止まった。
幽霊は律儀にも部屋の扉を開くと、迷うことなく俺のベッドの隣にまで一気にやって来た。
「起きなさい。」
幽霊の声が頭に響く。
やはり女性だ。
とてもスローなテンポで俺に囁いてくる。
俺はここで反応するのは良くないと判断し無視をした。
「起きなさい」
4、5回くらいだろうか、その囁きは続いた。
やがて、「起きてるんでしょ?わかってるのよ。」と言いながら、触れるくらいの距離まで俺に近づいた。
この時、玄関では腰から下しか見えない状態だった幽霊が首から足まで見えるようになっていた。
顔は相変わらず見えない。
だが、青いスカートではなく青いワンピースであることに気が付いた。
俺は、やはり狸寝入りはばれてるよな・・・。
まずいな、何か反応しないと危険かなと思い、「う・・うーん、まだ眠いから・・。」と寝ぼけたように言った瞬間だった。
幽霊は、俺の耳を劈くような悪意に満ちた大きな声で「お前も一緒に連れて行ってやる!!!」と言い放ち、口の中に手を突っ込み身体を上に持ち上げたのだ。
実際に持ち上げられたのかわからない。
魂だけを抜かれた感じなのだろうか?
ただ、俺は空中に浮いた感覚になっている。
焦る俺は思わず口の中に突っ込まれた手を思いっきり噛んだ。
それが、幽霊にも関わらず、骨に噛みついたような「コリッ」という感触はあった。
幽霊はその噛まれた痛みのためではないと思うが、「ああああああああ」と言いながら天井に消えていく。
俺は一人空中に浮いたまま。
やがて、気が付くと部屋の木目調な天井が岩山になっており、その岩山に亀裂が走ったと思ったら、いくつもの緑色の手が現れ、空中にいる俺に襲いかかってきた。
俺は動けないまま空中で身体をぐるぐると回され、恐怖で頭が真っ白になった。
しばらくして、「何してるんだお前達は!!」と頭の上の方から野太い男の大声が聞こえた。
驚いたように、そのいくつもの手は消えた。
ああ、やっと助かった・・・。
気が付くと、俺はベッドの上。
金縛りは解けていたので、時計を見ると深夜2時。
誰だかわからない野太い声の男に感謝した。
翌朝、俺はこの恐怖の体験を居間にいた両親に話した。
母親は、信じられないという顔で俺に言った。
母:「昨夜、私も夢で青いワンピースの女性を見たわよ。でも私は顔も見えた。」
俺は嫌な予感がしたが、「どんな夢だった?」とたずねると、母は少し興奮した様子で俺に話し始めた。
母:「夢の中で玄関を掃除をしようと、扉を開けて庭を見ていたのよ。すると、庭先に青白い顔をした女性が不気味な笑顔でこっち見てるじゃない。私恐ろしくなって、お父さんを呼びに部屋に戻ったの。それで2人して玄関に行くと、その女性は鬼の形相で家の中に入ってきたのよ。もうねえ、びっくりして飛び起きたわよ。その人が青いワンピース着てたわ。」
俺:「その女性は知ってる人?」
俺は恐る恐るたずねた。
母:「え・・ええ・・知ってるわ。短大に通ってた頃の友人。」
俺:「今でもその人に連絡は取れるかな?」
俺が全てを言い終わる前に「近くにいるから連絡取ってみる。」と、母は慌てるようにそう答えた。
しかし、直接の連絡先がわからないため、共通の友人経由で探しているようだった。
俺は朝食を終え学校へ向かった。
学校が終わり、家に着くと母がいない。
妹に尋ねると通夜に行ったとの事だった。
通夜から戻った、母は俺に言った。
母:「昨日の夢に出てきた女性。昨日事故で亡くなったの。事故があったのは深夜2時。気になったので、遺族の方に亡くなった時の洋服を聞いてみたの・・・。青いワンピースだったらしいわ。」
『深夜2時』
『青いワンピース』
これらのキーワードは昨夜の家での出来事と母の友人の事故を関連付けるには無理な話じゃないだろう。
その女性には俺は一度も会った事がない。
母も10年以上会っていない。
また、母が言うには恨まれる憶えもなく、特別に親しくする程の付き合いもなかったとのことだった。
でも、昨夜、俺達の前に現れたのは彼女は、昨夜亡くなった母の友人に間違いないだろう。
なぜ、こんな”かたち”で俺達のところに現れたのかは謎だが・・・しかし、この出来事以降、俺は度々不思議な体験をすることが増えた。