気付かれた事に満足

カテゴリー「心霊・幽霊」

私が通っていた高校では入学後、バスで1時間ほどの距離にある青年の家での宿泊合宿がある。
2泊3日で野外炊飯をしたり、山を探検したり、県外から入学する生徒が多いのもあって新入生が仲良くなる事を目的とした恒例行事のような物だった。

クラス毎に分かれる班を作るんだけど、A組からE組まで、内申書に合わせたクラス分けをされているので毎年要注意クラスがあった。

A組はさほど目立った生徒はいないが、成績がそこそこ良いクラス。
B組がその高校では要注意とされるクラスで、その中にクラス平均を上げるために成績優良児が2、3人放り込まれる。

C組は要注意まではいかないが、ヤンチャな子が入るクラス。
D、E組は特進で優秀な生徒ばかりになっていて、初日からかなりの温度差ができる。
私の年もB組は初日から仲良くなって、せっかく分けられた班に縛られずクラス全体でワイワイしながら1日を終えた。

するとその夜、早速クラスの中心的な子が肝試しを提案してきた。

『青年の家』の入り口となっている場所には大きな吊り橋があり、昔から自殺者が絶えないんだが、そこに行こうと言い出した。

消灯後、先生たちの見回りが2回ある。
午前2時には見回りが終わり、その後は朝まで来ないと同じB組にいた兄を持つクラスメイトが教えてくれた。
話の流れから、この肝試し自体が宿泊合宿での恒例行事らしい。

男女の宿泊棟は離れており、円形になった施設の端と端にある。
その丁度中間にある食堂の前に見回りが終わり次第集合となった。

見回りが終わったのは聞いた通り午前2時過ぎ。
先生が部屋に入り、鍵が閉まる音を聞いて忍び足で出発した。
食堂の前まで来ると既に男の子達は揃っていて、男女で18人ほど結構な人数が集まっていた。

リーダーとなった友人が、吊り橋までの道順を簡単に説明している時、クラスメイトの1人が食堂の真正面にある山を指差した。

あれ、誰かいねぇ?

施設はほぼ360度山に囲まれている。
全員が山に注目し、静かになった。
目を凝らすと真っ暗な山、木の中に白っぽい物があった。

なにあれ・・・気持ち悪・・・と口々に呟き始めた時にその”白いもの”が動いた。
風もないのに、それはゆらゆらと揺れる。
その場にいた全員が硬直した。

揺れていたそれはピタリと動きを止めると、頂上から落下するジェットコースターのようなスピードで山肌を駆け降り、私達がいる食堂目掛けて走りこんできた。

一瞬だった。
逃げる間も与えない速さで目の前まで来ると一塊になった私達の周りを、一人ひとりの顔を覗き込むようにグルグル回りながら高笑いをする
誰かが走り出した瞬間、金縛りが解けたように全員が叫びながら男子棟に向かった。

後ろは見なかった・・・と言うか見なくても分かる。
振り子のように大きく左右に揺れながら追いかけてくるのが分かる。

叫びながら走ったおかげで宿泊棟が見えないうちに前から男子棟にいる教師達が走ってきた。

「おまえら何やっとんなぁぁぁあ!!」と怒鳴る先生も、私達の後ろの存在に気付いたのだろう。
私達生徒より早くに元いた宿泊棟に走り出した。

死に物狂いで一番近い教師の泊まる部屋に走り込み、ドアを閉める。
ドアが閉まりきらないうちに、ドアにぶつかる音が聞こえた。

全員がまだ状況を飲み込めないまま必死にドアを押さえた。
しばらく「ドンドンドン」と外からぶつかる音が聞こえたが、やがて静かになった。

張り詰めた空気が少し和らいだ気がしたのだが、気のせいだった・・・。
ドアに付いた星の型をした覗き穴から女は覗いていた。
自分の存在に気付かれた事に満足したようにニターと笑うと女は消えた・・・。

しばらく何人かの女の子が泣き、男子も黙り込んでいた。
怒られる事を覚悟したが、先生達もショックだったのか、「草木も眠る丑三つ時って言うだろう。昔の人が言う言葉には必ず意味があるんだよ」とだけ言われ、男子棟にいた先生だけで話し合いが行われた。

明け方を待って念のために青年の家に近いお寺でお祓いをしてもらう事になり、午前4時半頃にお寺に向かった。
簡単にお祓いをしてもらうと、「ここら辺は昔から自殺者が多い。安易な考えで行動しないように」と注意を受けた。

それからまたすぐに自殺者が出たらしく、宿泊合宿は私達の代以降は廃止された。

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