友達と２人で、事業家仲間の別荘に遊びに行った。
山中湖を見下ろす、山の高台ということだった。
最初は俺が運転し、山中湖が近くなってからは、１度行って道を知っている友達が代わった。
湖を左に見ながら山のほうに切れ込む道を探したんだが、迷子になっていつまでたっても着かない。
夏のことで、日が傾いても山中湖は賑わっている。
俺は疲れて、そんな湖を見るともなく見ていた。
何度か通った同じＴ字路にまた差しかかったとき、運転中の友達が左の湖のほうを振り向き、じっと凝視するという、とんでもないわき見運転をやらかした。
折りしも対向車が来ている。
道は狭い。
「あぶねぇ、バカッ」
俺はとっさにハンドルを脇からつかんだ。
俺たちの車は潅木をなぎ倒しながら左に拠れ、対向車はその右をまっしぐらに通過していった。
ものすごいクラクションで叱られたが、まあ、無事だったので安堵感しか残らなかった。
「なにやってんだよ、あやうく他人様に迷惑かけるとこだったぜ！」
俺はプリプリしながら言ったが、友達の反応は鈍く、俺は運転を代わってやった。
すると、道はあんがいすぐに見つかった。
仲間の別荘で男３人飲んだり食ったりし、大して役に立たない情報も交換したりして楽しく過ごした。
翌朝、俺は運転を買って出た。
きのうのＴ字路に差し掛かると友達はまた、湖をじっと見ていた。
友達：「見ちゃったんだよね。きのう。きょうはいない」
俺：「うん～？」
俺はしらばっくれて気のない返事をしたが、内心では「やっぱり」と思った。
実は俺も見ていたんだ。
にぎやかな人の群れの後ろのほうで、中年女と若い娘の２人連れ。
２人とも黒ずくめの服装で、ま、俺も黒ずくめだったから人のことは言えないが、モノトーンのような青い顔、紗でもかかっているような存在感の薄さ。
明るくさざめいている人々の後ろに影のように、ただ突っ立ってるだけの２人。
『いかなる執着のありしにや』という、遠野物語の一説か浮かぶような光景だった。
あとで別荘の友達に電話してきいてみたが、「山中湖は出るって言うね。でも、２人連れかどうかは知らない」ということだった。
