俺が入学した高校(高専)というのは俺が生まれた年、昭和○年に出来た学校なんだけど、山裾の何もない丘を切り開いて作られた学校なのね。
そこは俺んちのすぐ近所だったんだけど、子供の頃にはその校舎の電灯に集まってくるカブト虫やクワガタ虫に夢中になって、夜明けと同時刻に弟と二人、敷地の中に忍び込み、昆虫採集に夢中になってた。
あれはある晩のことだよ。
晩というかもうすぐ夜が明けるといった未明だね。
弟が突然「やべえっ」って言ったんだ。
どうしたんだろ?と思って弟が見てた方に顔を向けると、校舎の窓から青白い顔をした女の人がこっちを見てたのよ。
背中に赤ちゃんをおんぶしてる。
俺ら、よく忍び込んでは見巡りの守衛から見つかって逃げまくっていたので、それも学校関係者の人なのかと思って一目散に逃げ帰った。
それから10年ほどして、その学校に俺が入学することになるわけだけど、入学してわかったのは、この学校は2年まで全寮制で、寮生は希望入寮者含めて4年までいるってこと。
それと、俺らが子供の頃にカブト虫採集に忍び込んでいたのは寮内の敷地だったこと。
自宅が学校の目と鼻の先にも関わらず、俺は全寮制のしきたりで寮に入ることを強いられた。
さて、寮に入るとどこでもあることだろうけど、先輩たちから寮内のルールや秘密なんかを教わるわけだ。
俺が聞いてびっくりしたのは、1年坊主の寮棟から洗濯室まで行く途中の渡り廊下に、髪の長い女の幽霊が出るって噂。
噂っていうより学校設立から15年ほど経って、目撃したという先輩や宿直講師があとを絶たないって事実が存在してた。
その女の幽霊は小さな赤ん坊を抱いていて、悲しそうな顔をしてこちらを見つめてくる。
子供の首が360度回ってこちらを見てケタケタ笑うとか。
俺、その話を聞いてぞっとしたよ。
子供の頃、窓から子供をおんぶした女の人が俺らを見てた場所が、まさにその渡り廊下だから。
そしてその話を更に決定付けたのが、うちのばあちゃんの話だった。
寮に幽霊が出るって話を帰ったときにしたら、ばあちゃんマジメな顔して「場所はどのへん?」って聞いてきたんだ。
俺は紙に学校の見取り図を書き、1年の寮棟と洗濯室を結ぶ渡り廊下の場所を指さした。
したらばあちゃん、真顔でこう言うんだな。
ばあちゃん:「あの学校が建つ前のあの場所は小高い丘になっててな、心中する人があとを絶たなかったんだ。その中に身元のわからない人もいて、その場所だよ、母親が小さい子の首を締めて道連れに心中したのは。無縁仏として、たしか近所の寺で葬ったことがあったんだよ、昔。亡骸は、子供の首が反対側向いてたっていうよ。絞めたというより回して殺したんだろうな。自害までして、あの女の人は成仏できまいって」
俺、その話を聞いて凍りついたよ。