俺的には洒落にならなかった話。
学生時代、かなり有名な山と峠の側に住んでたんだが、その峠には「魔のカーブ(笑)」というのがあって、俺がいた4年間の間にも数人が犠牲になっていた。
当時、バイクが好きで、そのうえ山登りも好きだったので、夏場はその峠をツーリングがてらに、「魔のカーブ」を気にせずバイクで登り降りしていた。
普段の夏場はほとんどと言っていい程、夕立と雷が発生する山だったので早めに下山するため、夜間その峠を通過することはなかったわけだが、その日は、たまたま雲も広がらず、やたらと涼しかったので、草原に寝っ転がってうたたね(爆睡?)してしまい、「うわっ!もう9時か!?」てな感じで、慌ててバイクに荷物をくくりつけて峠を降り始めたんだ。
普段、通り慣れた峠も、夜になると雰囲気が変わって、街灯なんかもない所だから、事故らないように普段より慎重に下ってたんだけど、カーブを切ってる間にあの「魔のカーブ」に近づいてきた。
実はこの魔のカーブの場所が逆バンクになっててとても滑りやすく、地元の人間なら知ってるんだけど、他県から来た人達なんかは、知らずに攻め込んで、スリップしてガードレールに張り付いていた。
周りが真っ暗だし、明かりと言えば、自分のバイクのライトと、横の壁に反射する真っ赤なブレーキ灯だけ。
逆バンクなので慎重にそのカーブを抜けようとしたんだ。
そしてカーブの頂点にさしかかったとき「ズシッ」って感じで、何者かが、勝手に俺のタンデムシートに乗ってきた感覚がした。
「ゲ!!!」
何だこれ!と思う前に、バイク乗りの習性でバイクを必死に立て直してなんとかカーブを抜けた。
「おお危ね、なんだ今のは??、パンクか??」と思って次のカーブに差し掛かったとき気がついた。
なんか、後ろに乗ってる・・・。
かなり重いものがのってる・・・。
おいおい嘘だろー・・・。
バイクに乗る人ならわかると思うが、タンデムしてる人間が運転手と一緒に重心を変えずに乗ってると、車体を倒してカーブやりにくいんだけど・・・その感覚・・・。
しかも乗り続けてる。
パニックになりながら一所懸命考えた。
今、峠の中央付近だから、明かりがある麓までにはまだ20分は必要。
この状況で、やばいのはパニックを起こすこと、見るのはダメ・・俺死ぬ。
バイクも停めたくはない・・・真っ暗だし・・・。
涙目・・・。
腹をくくった俺は、このまま明るいところまでなんとか走ろうと、バイクのバックミラーを、後ろが見えない角度に変更して、いくつかのカーブを走り続けた。
でも、なんかおかしい。
いつもタンデムしている時と、感覚が違う。
何か乗ってるのは間違いないが、人間が座ってるにしては、重心の位置が変だ。
でも、この状況で手が腰に回ってきたり、首絞められたりしたら・・・。
明日、学生のバイク事故のニュースになるなとか・・・。
ガクブルのまま5分位、ゆっくり走り続けた。
そのとき、後ろから、飛ばしてきた車が俺に追いついてきて、急にハイビームにすると、派手にクラクションを鳴らし始めた。
「おおおおお、人だー!助かった!」
その車はガンガンクラクションを鳴らしながら煽ってくる。
普段なら「コノヤロー」なんだけど、救世主に見えたな。
で、その車に追い越されて先に行かれてもまた一人になるのでわざと道の中央で、ゆっくり減速して、バイクを停めると、車も一緒に停った。
車から「バカヤロー!」と怒鳴りながらヤンキー系に兄ちゃん二人が降りてきて「なんのつもりだ」と怒鳴ってる。
事情を説明しようとしたら、一緒に降りてきたヤンキーが「あれ、もう一人は?」と言い出した。
で、二人で周りをキョロキョロしているので逆に話を聞いてみると、峠を走っていたら、トロトロ走っているバイク(俺のことね)がいた。
追い越そうと近づいてみると様子がおかしい。
さらに近づいてみると、トロトロ走ってる上に、馬鹿な乗り方してる。
頭にきて煽ったってことだったんだけど・・・。
なんでも、バイクの後部座席のやつは、ヘルメット被ってシートに立ってて、それで、バランス取れなくてゆっくり走ってるんだと思ったんだって。
文句言おうと思って降りてきたら、一人しか居なかったので戸惑ってたってわけ。
バイクに乗ってた時の怖い体験談でした。