私が子供の頃住んでた家の近くのお寺は、西側が墓地になっていた。
夜になると寺は閉まるが、墓地には裏手の壊れた垣根からいつでも入る事ができたため、時々、夜の墓地に入って肝だめしをする者もいた。
私が小学生の頃、友達と一緒に夜の9時ごろそのお寺の墓地に探検に行った。
初めは怖かったが、特に何も出てこないので、調子に乗ってワイワイ騒いでいたら、寺の裏から一人のお坊さんが出てきて注意してきた。
友達がお坊さんに「お化けとか出ないの?」と馬鹿な事を言ってしまったが、お坊さんは、「そんなものはおらん。わしは昔からこの墓地を管理しているけど、そんなものは一度だって見た事はない」と言う。
続けて、「それよりも夜によく人が入って来るから困る。この前もひどいのがいた。先週、見回ってたら、そこの灯籠の所に気配がしてな、何かと思ったら、夜中に誰かが灯籠に抱きついとったんだよ。わしは叱ってやろうと思い、灯籠の後ろに回ったてみたら、体だけで顔が見えなくて、おかしいと思ってもう一度正面に回ったら、そいつ灯籠の穴から顔だけ出してた。しかも気味の悪いくらいのニコニコ顔してたんだよ。頭のおかしい浮浪者みたいでな、放っといたらいつの間にかどこかへ行ってしまったよ。お前達もそんなおかしなやつに会わんうちに早く帰りなさい」
私はそこにあった灯籠を見ましたが、穴はどう見ても直径が20センチもないもので、ここから顔を出せる人間がいるだろうか?出したとしても今度は首が長すぎる。
どう考えてもそれは頭のおかしい浮浪者なんかじゃなくて、もっと別の、恐ろしいモノだったんじゃないかと思いましたが、頭のおかしい浮浪者だと平然と決めつけるお坊さんの方に、逆にコワい物を感じた私たちは、早々に退散したのでした。