十年程前に知人の木下さん(仮名)が亡くなりました。
数ヶ月後、木下さんの幼なじみみの金沢君(仮名)も自殺。
問題は金沢君が残した遺書に「籍を入れて下さい」と書かれてあり、アパートから木下さんの遺骨の一部が発見された事です。
警察が調べてみても木下さんは事故死であり、金沢君がどうこうといった因果関係はなく、好きだった相手が突然亡くなったのがショックで遺骨を盗み、本人も後追いを――という結論を出しました。
飲み会で何度かお話ししたぐらいしか接点はなく、私は彼女達の葬式に参列しませんでした。
一応携帯の番号を交換しましたが、共通の友人を持つというだけの知り合いです。
彼女は生前、飲み会でこうグチっていました。
「私達の国の男って最低。すぐに嘘を吐くし、指摘すると嘘を隠す嘘を吐く。もっと言うと暴力を振う。日本人と結婚して日本人になりたい。でも帰化したってみんなで嫌がらせするし、死んでも逃げられないだろうなー」
ずいぶん俯瞰(ふかん)的な、それでいて意味の通じない言い方をする人だな、という印象が強く残りました。
帰省した際に友人へ以上の話を振ってみると、「あぁ冥婚(めいこん)だね」と話し出しました。
いわく、死者と生者、もしくは死者同士を結婚させる文化が、東アジアには存在するそうです。
結婚させる理由はいくつかあり、親類同士が死者の幸せを望んだ場合。
あの世で幸せになるようにと。
もう一つは経済的要因。
厳しい身分階級がある社会で成り上がるには、婚姻が唯一の手段だったとか。
とはいえ実際の名家相手に婚姻し、縁戚になるのは難しい。
で、あれば死者であるならば簡単だ、と”無断で人様の墓から遺体を持ち出し、死者(or生者)と婚姻させる呪術”だそうです。
現代へいたると経済的、また古い信仰の淘汰により、先立たれた子供の供養として行う以外はすたれてしまった。
――が、日本でも有名人や親族、また某国では未だに財閥会長の遺骨が盗まれたり、極めて一部では未だに信じられているのかもねぇ、と友人は話をくくりました。
まぁそんな話をしてから一年ほどたち、存在すら忘れていた頃、木下さんの携帯から着信が届きました。
初めは驚いたものの、ご家族からだろうと思い直して電話へ出ると、聞き覚えのない女性の声でこう告げました。
「君の実家の墓を教えなさ――」
私は途中で通話を切り、翌日には電話番号を変えました。