寝ていると姉に起こされた。
時計を見ると、まだ夜中と言っていい時間帯だ。
私:「何ー?何なのー?」
妹:「しーっ」
声を出さないよう指を一本立てた姉が、こちらへ来いと手招きをする。
仕方なく姉について行き、少しだけ開いた扉の前へ立ってみた。
向こう側はダイニングだ。
ん?何か音がしてる。
一遍に目が冴え、息を殺して様子を窺った。
目が慣れてきたが、薄暗いダイニングには何も見えない。
しかし何かの気配が感じられる。
コトン、と小さな音がして、フッと気配は消えた。
少ししてから姉が明かりを点ける。
テーブルの上に団栗が一個だけ落ちていた。
寝る前にはなかった物だ。
姉:「見た、今の」
固い声で言う姉に驚く。
私:「何か見えたの?」
姉:「えっあんた見えなかったの。何か毛むくじゃらで丸いもふもふしたのが、テーブルの上で震えてたでしょ?」
私:「そんなの何も見えなかったよー」
姉:「嘘っ!?」
私:「・・・トトロ?トトロなの?」
姉:「あんなに可愛くない。大体、顔も手も足もないんだから。まるで阿寒湖のマリモがぶるぶるしてた感じだったよー」
私は頭を抱えたくなった。
しばらく経って珍しく日が高いうちに帰ってきた日のこと。
エレベーターを降りて、自分の部屋へ向かっていると、先の曲がり角に何か見えた。
髪が長い女性の頭だけが、ヒョコンと突き出されてこちらを見ている。
一目見て目を逸らした。
真っ当なモノじゃないと判断したから。
「だって、顔が突き出ている高さは、ほぼ天井と同じくらいなんだもの。一体身長がどれほどあるっていうのよー。おまけに、嫌になるくらいに無表情だったし」
目を向けないようにして、自分の部屋に何とか入った。
その後も度々見かけらしいが、無視し続けたのだそうだ。
晩御飯を食べ終わって、一人まったりとテレビを見ていた時のこと。
姉は風呂を使っている。
と、視界の隅に何か動く物が見えた。
『お姉ちゃん、もうお風呂から上がったのか。今日は早いー。・・・あれ?でもバスの戸が開く音なんてしなかったような・・・』
そう思い洗面所を見やってから硬直する。
洗面所には何もいなかった。
それなのに、鏡に女の姿が写っている。
髪の長い女が、怒ったような顔で睨んでいた。
思わず、目が合ってしまったという。