うちの母が湯灌(湯灌(ゆかん)とは、葬儀に際し遺体を入浴させ、洗浄すること。)の仕事をしている。
簡単に説明すると『おくりびと』の仕事ね。
特に霊感とかはないらしいんだけど、仕事柄、たまに不思議な出来事に遭遇するらしい。
話を聞いた中で印象に残ってるのが、自殺した人の湯灌に行った時の話。
亡くなったのは農家の20代の息子さんで、身体の弱いお父さんに代わって、一人でがんばってたんだとかなんとか。
理由はわからないけど、結婚間近の彼女もいるのに首をくくっちゃって、うちの母が呼ばれていった。
母が農家のお宅につくと、残された家族はみんな泣き叫んでいたらしいんだけど、特に彼女さんが『発狂』という言葉がピッタリなくらい泣き叫んでいたらしく、たまたま亡くなった男の子が私と同い年だったこともあって、思わず母も涙ぐんでしまったらしい。
そんな中、化粧や衣装の着せ替えなど、お仕事を進めていたらしいんだけど、だんだん彼女の様子がおかしくなってきて、「◯◯(死んだ子の名前)が今そこに立ってる・・・」と、何もないところを見ながら話を始めたらしい。
うちの母は、「あまりのショックで頭がおかしくなったんやな・・・かわいそうに・・・」と最初は思ってたみたい。
だけど身体の弱いお父さんが、「お前がおらんようになったら、これから草刈シーズンやのにどうすんねん・・・オレ、混合油の作り方もわからんねんぞ・・・」とポツリとつぶやいてから雲行きが変わった。
※ちなみに混合油は草刈機を動かすのに使う燃料のことね。
「◯◯がこう言ってるよ。納屋の奥から何番目の棚の段ボールに作り置きの油を置いてあるからって」
見えない何かと会話していた彼女が呟いたんだとか。
その後お父さんが納屋を見に行って「ホンマに作ってくれてあった・・・」と、作り置きの油を持って帰ってきたらしい。
うちの母は帰ってきて「今日は怖かったわぁ」と、この話をしてくれたけど、怖いというよりはなんか切ないよね・・・。