それは噂ではなかった

私が初めて人外のモノを見たのは忘れもしない小学校三年生の時だった。
地元の子供クラブのきもだめしをやった夏の事だ。

あの時の事は良く覚えてる。
月明かりが奇麗で生ぬるい風が吹いていた。
遠くで稲光が瞬いていた。

夜八時頃、近所にある道祖神の前に集まった。
肝試しは其処から近くの無人の墓地に行って帰って来るというルールだった。

外灯もなく子供だけでは危ないので大人一人とセットで行った。
墓地では予め待ち構えていた大人や、中学生がお化け役をやって、私のような小さな子供を怖がらせた。
実際大人達は大声を上げ墓石を倒したりとかなり無茶な事をやっていた。

私と一緒に回った大人は新婚の女性だったのだが、随分しっかりし人で私は特に不安もなかった。
そして私達は無人墓地から道祖神までのおよそ30分程度道のりを無事帰ってくることが出来た。

道祖神のある広場まで帰ってくると大人達からジュースを貰った。
甘ったるいオレンジジュースだった。
全てのきもだめしが終了すると大人達が次々と怪談話を披露してくれて場を盛り上げた。
場の空気が変わって肌寒くなって私は少し震えてしまった。
もう冷たいジュースは飲めない。

ふと大菩薩峠の方を見た。

見るとそこには真っ赤な球体がゆらゆらと飛行している。
人魂だ!と私は皆に言い、その方向を指差したが既にいなくなっていた。

嘘吐き呼ばわりされた私は憤慨したが誰も取り合ってくれなかった事を覚えている。
もう私は帰りたかった。
遠くの外灯の下に白い着物を着た女の人が見えたからだ。
吐き気を覚えた。

もう帰ろう。

私が言うと皆ももう遅いからそろそろお開きにしようと解散する事になった。
幸い私の家はその道祖神から近い所にあるので帰路を急いだ。

流石に独りで帰るのは心細いので皆の数メートル先を歩いた。
幸いこの方角に帰る人は結構いる。
家には祖父母が待っている。

すると前方から人の足音が聞こえてきた。

アスファルトを蹴る音。
誰かこちらに走ってきている。
時刻は既に11時過ぎ。
こんな暗い田舎をこの時間に走る人間がいるのか?と思った。

道は一本道なので私の所まで確実に来る筈だ。
どんな奴か顔を見てみよう・・・と私は思った。

後ろには皆もいるしさほど怖くなかった。
そして足音も大きくなりその姿が見えてきた。
緑色の服を着ていた。

・・・違和感。

!?顔が無い。
首から上が何も無いのだ。
しかも身体の厚みも無い。
紙のようにペラペラだった。

だがそれは確実に私に近づいてくる。
動きもまるでビデオのコマ送りのような動きだ。

瞬間移動してるように近づいてくる。
ただその足音だけは規則的だった。

私が硬直してる間にそれは私の目の前まで来た。
すると私の手前2メートルくらいで方向転換し道の右手にある畑に飛び込んでいった。

もう姿は見えなかったが畑の中を走る足音だけが聞こえた。
アスファルトを蹴る音から土や葉を踏む音に変わっていた。
正気を取り戻しすぐ後ろに戻った。
たかだか数メートル後ろにいる人にそれが見えなかった筈はないと思った。
しかしそれを見た人間は誰一人としていなかった。

たまにペラペラで厚みの無いそれを見たと言う人の話を聞く。
大概は冷かされ笑い話の類になってしまうのだが私は笑わない。
それは確実に存在する。

数年後もう一度それを見た事がある。
大学を受験するにあたって遅くまで起きて勉強をしていた時だ。
私は凄まじい眠気のため勉強を中断して仮眠することにした。

電気を消しベッドに入りしばらくして金縛りにあっていることに気付く。
目だけはなんとか開くことが出来たので天井を見ると3つの光が私の周りをグルグル回っていた。
私の隣で人の気配がする。
呼吸をする音がするのだ。
吐息が私にかかる。

私は唯一動かせる目だけでそこを見た。

真っ黒でペラペラなモノが私の隣に寝そべっている。
ただ白目だけがはっきりしていた。それは私を見つめながら何回も瞬きをしていた。

もう一度言うがそれは確実に存在するのだ。

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