”彼ら”と同化していく恐怖

カテゴリー「心霊・幽霊」

2週間くらい前?だったかな?
瞬間的豪雨?ゲリラ豪雨?何か唐突にやばい雨降るやつがあったんだが、その日学校は期末考査で午前中だけだったから、俺午後には家にいて、勉強もせずに漫画読んで充実してたのよ。

んでしばらくして勉強でもすっかなー、って思ってたらたら窓からバリバリバリって音すんの。
おったまげて飛び起きたら例の雨だった。

いつもの俺ならめんどくせーな、って外に出ようなんて馬鹿なことは思いつかなかったが、その時の俺はなぜか意気揚々として傘をひっつかんで外に出ていた。

なんかな、近所の池が決壊するところを無性に見たくなったんだよ。
そいで外に出た瞬間には激しい雨で既にびしょ濡れで、普通もういいや、行かねーってなるはずなのに俺全然さっそうと歩いてんの。
自分でもあれ?って思ったのは覚えてる。

で、三m先も白く霞んで見えない状況なのにさらっと池についたのよ。
俺すげーって正直思ったw

その池はそんなでかくねんだ。
形はひょうたん型でちょっとくびれてて、そのくびれに橋がかかってんだ。
それで橋で二分された池のでかい方にはしだれ桜が一本だけ生えてる島があって、春には艶かしい感じで咲くの。
雰囲気あるんだ。

まあ今夏だから桜の黒っぽい葉が茂ってて、何かワカメっぽかった。
池のふちにもソメイヨシノが植えられるんだが、それもワカメっぽかった。

話戻すけど、池が決壊してないのを見てがっかりした俺は、橋の真ん中に立ってそのしだれ桜をなんとなしに見てたんだよ。
視界が雨でぼんやりしすぎてあまり見えなかったが。

ほんとぼーっとしてたら雨が唐突に少しだけ軽くなったんだ。
それと同時に少しだけクリアになった視界に女の人が写ったんだ。

こんな土砂降りの雨の中、もの好きもいるもんだな、なんて自分を棚に上げてハッとした。
その女の人は、薄ピンク色の着物を着ていた。
そして角ばったフォルムの傘はきっと番傘。

雨で白く霞んで細部は見えないけど、顔の白さがこっちを向いていることを示していた。

別に怖くないんだ。
表情も見えないし、感情もまったく読み取れないから。
たんなる通りすがりの人って感じで、興味も沸かなかった。
だからしだれ桜を見ていたときのようにぼーっと見てた。
感覚が麻痺ったみたいにぼんやりしてた。
ただ、黒々としたしだれ桜の上に止まっていた鳥たちの視線は痛いほどに感じていた。

そして雨が弱まるまで見つめてたんだが、あと少しで顔が見える、というところで、その人は去っていった。

ただただ奇妙で、小説みたいで、俺は感動した。

それからだ。
確実に今まで見えなかったか、意識しなかったかした幽かなモノを見だしたのは。

見だしたと言っても、怖くはなかった。

見てはいけない感もしないし、感情も読み取れない。
ただの通りすがりって感じでさ。
というか、足しか分かんねんだ。
見えてないとか、全員足だけの何かというわけじゃないぜ。
俺の意識が足あたりまでしか認知してないって感じなんだ。

とりあえず生きてる人間ではないってわかるんだ。
ぼやけてたり半透明だったりするわけじゃないけど、何かくすんでるんだ。
正直ちょっとした非日常にワクワクしてたんだ。

だけど最近、違和感を感じた。
見える部分がだんだん大きくなってきていることに気がついたからだ。

でもやっぱり怖くないんだ。

本当に通りすがりなんだよ。
俺にとっても彼らにとっても。

彼らにとっても?

俺はだんだんそいつらの感覚が手に取るようにわかってきた。
その感覚は、俺が彼らの目線に立って、でなく、俺の目線が彼らになって、って感じだ。

一番しっくりくる表現は、俺と彼らが同化するという感覚だ。

俺が俺を怖がらないように、俺は彼らを怖がらない。

俺はいったい誰なんだ。
誰の思考で動いてる?

このまま意識の同化が進めばどうなる。
俺は奴らと同じになるのか?

同じってなんだ。
死ぬのか?

奴らの全身が見えた時、俺はどうなる?

同じような奴ここにいないか?どうなるんだこれ。

だれか教えてください

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