今の嫁と付き合って間もない頃の話。
俺が以前住んでいたアパートがいわゆる出る所で、付き合いたての彼女を怖がらせたくなかったから、部屋に連れて行かないように努めていた。
しかし、なんやかんやで俺の部屋に泊まる事になってしまい、何も起こらないよう祈るように寝ていたのだが、夜中の3時頃彼女が誰かと話す声が聞こえて目が覚めた。
「ヤバイ。取り憑かれたか?!」と心臓バックバクで、とりあえず寝がえりをうって彼女の方を向こうとしたけれど、話声を聞くとなんだか状況が違っていた。
「はぁ、へぇー・・・んだかぁオメぇも苦労したんだなぁ・・・。あぁ?だから違ぇっつってっぺー?あぺとぺな事言ってー、そいづとほいづは違ぇよーもうそのほでなすは死んだんでねぇか?だいだいいづの話なのっしゃ?ええ?」
なまってる・・・。
だが紛れもなく彼女の声だ。
宮城の出身と言ってたが、こんなになまっているのは聞いたことが無い。
しかもなんだか『誰か』と喋っている。
ちなみに俺のアパートに出るのは女。
夜中物音がしたり、うっすら目をあけるとたまに目が合う。
ただ見られているという感じがするだけで、今のところ実害は無かったし、近々引っ越す予定だったからとりあえずスルーをしていたのが現状だった。
もちろんこの事は彼女には話した事は無かった。
起き上がるタイミングをすっかり失った俺は、とりあえず寝たふりをして彼女の話を聞いてみた。
「んだなーこいづもだいぶ迷惑してるみてぇだしなぁ。おめぇもここにいる理由などねぇんでねぇか?うん・・・うん・・・んだすぺー!そのほうが絶対いいってば!な?もう上がれなぁ。んなほでなす忘れちまえな・・・な?(涙声)」
彼女がだんだん涙声になって、鼻をすする音を聞いた所までは覚えていたのですが、不甲斐ない事に、気が付いたら朝でした。
朝、彼女に「この部屋実は出るんだ」となにげなく言ってみたら、「あはは!もう出ないんじゃない?一応今日から3日間くらいアッチに向かって手を合わせるといいよ」とあっけらかんと笑いながら、何故か西の方角を指さしていました。
彼女(今は嫁)とのこういった話はちょこちょこあるのですが、これが彼女の不思議な何かにほんのり気付いた時でした。
ちなみにこの話は妻の了承済です。
あと方言監修もしてもらいました。