俺は夜の山を歩くのが好きで、よく甲山のあたりをブラブラしていた。
去年の9月頃からスーツ姿の男を見るようになった。
最初は気にならなかったが、ふと気付いたことがある。
ソイツには“気配”がないんだ。
ある日、思い切って話し掛けてみた。
俺:「(前略)ここ幽霊が出るみたいですよ」
スーツ姿の男:「でしょうね」
俺:「・・・見たことあるんです?」
スーツ姿の男:「目の前を歩いていた女がスッと消えたんです。茶髪の女だった。五ヶ池に通じる道の途中、中年の女が雑木林の中でこっちを見ていたこともありました。みくるま池の上に掛かっている橋の上で、女の悲鳴を聞きました」
俺:「な、なんでそんな場所に来れるんですか?」
スーツ姿の男:「私はね、甲山に来るとホッとするんですよ。居心地が良いんです。ここには安堵感がありませんか?」
甲山を気持ち良いと思う人間もいるんだな、と思った。
つーか、コイツ目付きとんでもなく怖かった・・・。