住民から聞いた話。
夜遅くに、自分の部屋で雑誌を読んでいた。
BGMとしてお気に入りのCDを聞きながら。
最後まで聞き終わったら、別のCDに変えるつもりだったという。
ふと目を上げて時計を見、違和感を覚える。
おかしい。
雑誌を手にしてから小一時間は優に過ぎていた。
だのに、全曲で五十分足らずのこのCD、演奏が全然終わっていないのだ。
曲順を確認すると、まだ半分ほどしか再生されていないことになる。
途中でリピートでも掛かったかと思いプレイヤーを確認したが、ノーマルのままで何の設定もされていない。
聞き流していたけど、そういや、さっきからずっとこの曲を聴いている気がする。
不審と同時に興味を覚えた彼女は、そのままプレイヤーを眺めていた。
やがて曲が終わると、そのまま普通に次の曲へと移る。
と、プレイヤーの後ろ、壁との隙間から、白くて薄っぺらい物が滑り出てきた。
手だった。
女のそれに見えたという。
指が器用にREWのボタンを探り当て、操作を行うと、またあの曲が頭から始まる。
手は満足したようにゆらりと一回揺れて、スルッと隙間に吸い込まれて消えた。
慌ててプレイヤーに駆け縋り、持ち上げてそこの一角を凝視した。
何もない。
何の変哲もない床と壁の継ぎ目があるだけ。
ふと、これまでにあった奇妙な出来事を思い出す。
外出から帰ってくると、CDが掛かりっ放しになっていたことが、何度かあった。
自分が消し忘れたかどうかしたのだろうと考えて、あまり気にしていなかったが。
・・・ひょっとして!?
その夜の内に、白い手がお気に入りだと思われるCDを、全部棚の奥に仕舞い込む。
彼女自身のお気に入りもあったのだが、背に腹は代えられない。
加えて現在、使わない時にはCDプレイヤーのコンセントを抜いておくのだそうだ。
あの手がどれくらい知恵あるのかわからないけど、今のところは独りでに起動した形跡はない、そう彼女は言っている。