知り合いの話。
彼は子供の頃、山中のお寺に何度かお泊まりしたことがあるらしい。
地元の子供会の行事だったとか。
小学校に上がる前の年、やはりその寺に宿泊したという。
真夜中、尿意で目が覚めた。
一人トイレに行ったのだが、用を足しているとゴーンという鐘の音が聞こえてくる。
こんな時間に誰が鐘を突いているんだろう?と不思議に思い、見に行ってみた。
縁側から鐘突堂を見やると、白い着物を着た女性が鐘を突いている。
近所に住んでいる、顔見知りの小母さんだった。
怒ると怖い人だったので、近よらずに布団に戻ることにした。
「大きくなってからこの記憶を思い出したんだけど、別のことも思い出したんだ。俺らが寺に泊まったその日、この小母さんもう死んでたって。確か前日に葬儀があったんだ。うん、正にあのお寺で」
今でも時折、寺の鐘の音が小さく聞こえる夜があるのだと彼は言う。
「そんな時、ふっとあの小母さんが頭をよぎるんだ。ひょっとして鐘を突いているのは、その日死んだ人なんじゃないかって。死んだ人はあそこの山の上から浄土に行くって、昔は言われてたみたいだし」