赤いドラム缶の話

カテゴリー「心霊・幽霊」

昔通ってた小学校の七不思議のひとつに、『○○スーパーの横の赤いドラム缶』っていうのがあった。
学校からは二百メートルくらい離れているけど、なぜか小学校の七不思議の一つになってた。

内容としては以下。
・○○スーパーの横にある赤いドラム缶は、もともと青かったが血で赤くなった
・ドラム缶の上に赤い水が溜まる
・上に爺さんが座っているのを見たら、逃げないと捕まえられる
というものだった。

それでも隠された場所にあるわけでもなく、歩道に若干はみ出して置かれているので、いつでも誰でも見ようと思えば見れる。

ところがある日、クラスメイトのAが、「たまってた」と言い出した。

「学校来るとき見たの、ドラム缶に水が溜まってた。赤い水が」

雨水が溜まったんじゃないかなと思ったけど、今朝も昨日も雨は降っていない。
そもそも学校行くときに通る道なので、ドラム缶なら私も見た。

「水なんて溜まってなかったよ」

「見間違いかなあ・・・」

ちょうど水が溜まるところは錆びていて、普通の水が溜まっていても赤っぽく見える。
きっと見間違えたんだろうとなった。

それでも放課後になればやはり気になってきて、Aと私で見に行くことにした。
怖いね、本当に赤かったらどうしようね、なんて言いながら○○スーパー横についた。

壁と壁の隙間から三分の一ほどは道にはみ出しているドラム缶はやっぱり赤い。

「水なんて溜まってないよ」

ドラム缶の上に、水は溜まってない。
サビが浮いた面が見えるだけ。

「なあんだ」というのと「よかった」、というのが半々な気持ちだったけど、やっぱりどこかほっとした。

何もないことはわかったけど、薄気味悪いというのがあって、さっさと帰ろうと背を向けた。
数歩ほど歩いたあたりで、背後でAが突然「あーッ!」と大きな声をあげた。

振り向くと、Aがドラム缶の方を向いたまま、じりじりとこちらへと後ずさりしている。
どうしたの、と言いかけて私の動きが止まった。

さっきまで確かに乾いていて、水など一滴もなかったドラム缶の面から、ぱたぱたと水滴が落ちている。

そんなわけない、水は確かに無かったのに。
恐る恐る近づいた。

「ひぃぃぃぃ・・・」

壁と壁の隙間、間近に立たないと死角になるような狭い場所に、人がいた。
ガリガリに痩せこけて、ボロ布を纏った老人。
脚を左右に広げてしゃがみこんで、脚の間に手をだらりと下げている。

枯れ木のように細い手首には、ざっくりと横に切ったような傷が無数にあり、
そこからビチャビチャとどす黒いものがこぼれていた。

「きゃあああ!」

「わああああああ!」

咄嗟に悲鳴を上げて走り出した。

ドラム缶の面から落ちていた水は、あの腕からこぼれた血だった。
必死になって走りながら、追ってきてるんじゃないかと気が気じゃなくて、振り向いた。

ブシャブシャと手首のあたりから血を噴きだし、左右に腕をぶらぶらと振りながら老人が追いかけてくるのが見えた。

明らかに異様な風体で、ましてや流血しながら走ってくる。
それなのに、街中にいる人は誰も気付いてない。
走って走って、体育の授業でもこんなに頑張ったことないと思うくらい走った。

大通りに出たとたん、パパッとクラクションの音がして、目の前に車が止まった。
退社中の母だった。

真っ青になってるAと一緒に車に乗って、「早く逃げて!」と絶叫した。

何の事だかわからない母は困っていたが、車を出してくれた。

窓から見ると、あの老人はまだ追ってくる。
ぶらぶらと両手を振り、血をまき散らしながら追ってくる。

それでもさすがに車だと早く、あっという間に見えなくなった。

ようやくほっとして、母にAを家まで送ってもらい、そのまま家に帰った。
帰宅して、同居していた祖母に帰宅の挨拶をしに行った。(親にそう躾られていた)

「おばあちゃん、ただいま」

「おかえり」

病気で目が見えない祖母だったが、挨拶をすると、必ず私の方を向いてくれる。

怖いことがあったと祖母に話そうとすると、突然祖母が起き上った。
足腰がかなり弱く、ほとんど車椅子じゃないと移動できない祖母が立ち上がった。

「○さん(母の名前)!塩持ってきて!」

言うなり祖母はよたよたしながら玄関に行き、母の持ってきた塩を掴んで玄関に撒いた。
ついでに私の頭やら肩やらにも塩を振りかけた。

何が起きてるかわからなかったが、ひとしきり塩を巻いたあと、祖母は手首につけていた数珠みたいなのをはずして私の手首につけさせた。

「これでいいだろう」

そう言うと祖母は母に支えられてベッドに戻った。

正直驚いたが、特に何もなく、夕飯になる頃、父が帰宅した。

「玄関先でなにかこぼしたか」と父が言うので見に行ったら、玄関の外に、赤茶けた染みが出来ていた。

翌日からは少し遠回りをして学校に行くようになったので、あの老人を見ることはなくなった。

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