犬の死体に首が無かった

カテゴリー「心霊・幽霊」

俺が小学1、2年生くらいだった頃、通学路で普段通る、地下道の天井に「かっぱの手」と呼ばれる大きなシミがあった。

それは見ると確かに4本指の手のような形をしていて、両端が少し短い。
それが河童の手の特徴なのか、単にそれっぽく見えるというだけなのかよく解らなかったが、幼心に結構不気味だと思っていた。
そのかっぱの手には、傘で突くと呪われるやら祟られるという噂話があって、地元の子供の間ではそこそこ有名な名所だった。

雨が降ったある日の下校中、いつもの4人グループでいつものようにその地下道を通ると、中でも特に体格のいいT君が、例の手を指差して「肝試しをしようぜ」と持ちかけてきた。

「突けなかったやつは荷物(ランドセル)持ちな?」

1人は嫌がっていたが、俺ともう1人の子は割と怖いもの好きなほうなので、その話に乗っかった。

どうせ手の形っぽく見えるだけの、ただのシミだし、祟りなんて実際にあるわけないだろう・・・そうは思っても、地下道というのはかなり薄暗く、下校する時間帯の夕暮れ時なんてかなり怖い。

俺を含め3人は、シミと睨み合いつつも逃げ腰で、なかなか行動に移せなかった。
そうこうしているうちに嫌がっていた子が、「もういいじゃんそんなの・・・早く帰ろうよぉ。どんどん暗くなっちゃうよ・・・」と業を煮やした。

それを皮切りに、T君が思い切って、かっぱの手を傘で突いた。

「・・・やった!俺優勝!」

一度やってしまえばもう気負いしなくなったのか、その後も何度も突いてみせた。
それに興じてもう一人の賛同者も突いてたかもしれないが、よく覚えてない。

俺はこの間傘を壊してしまったばっかりで、母に叱られたのを思い出し、むしろその手のシミより母親の方が怖くなったのでやめておいた。

次の日の土曜日、友達の家に遊びに向かう最中、例の地下道のある道に差し掛かると、そこには、犬の死体が転がっていた。
首から上が無く、頭の中身と思しきものがグチャグチャに飛び散り、散乱していた。

そのまま放置するには偲びなかったが、あまりにもグロテスクな光景に嫌悪感を覚え、とにかく先を急いだ。

今思えば、業者に連絡したほうが良かったのだろうが、当時はその発想が無かった。
帰宅する頃には、死体は掃除され、血痕だけ残っていた。

後日登校したとき、クラスメイトに件の話をすると、その犬はT君の家で飼っていた犬の死体だと訊かされた。
T君の母が飼い犬と散歩中、信号待ちをしている際に突如縄が切れてしまい、何故か犬が大通りをいきなり横切って、轢かれててしまったらしい。
ちょうどかっぱの手がある辺りの真上で・・・。

T君自身もその話を震えながら周りにしていたようで、大分不安と恐怖に駆られていたようだ。
それ以来、その事を知っている子は、皆その地下道を避けるようになった。

今はもう道路が拡張され、新しく歩道が出来て、地下道は下水道になっていたが、今もあのシミ自体は残っているんじゃないかと思う。

この話を成人式の二次会で、当時のT君と、中学時代からの友人Yの前で話すと、隣で静かに訊いていたT君が俯き加減に口を開いた。

「実はあれな・・・・・・手じゃなかったんだ」

「手じゃない・・・・・・?」

「まあ自分家の犬があんなことになったからさ、当時相当怖かったんだよ。だから、じいちゃんとかその手に纏わる事を何か知ってる人はいないかって、必死で訊いて回った事があるんだよ。それでさ、両端の指短かっただろ?あれが手っていうか、腕で、中の2本が足なんだ」

もう一人の友人が咄嗟に言った。

「それって・・・・・・河童そのものってこと?」

「逆さまにしてみ?」

俺は背筋に寒気を感じながら答えた。

「首のない人の姿・・・・・・」

「昔さ、あの地下道の辺りは川だったんだよ。台風が来たときとかよく洪水になってさ、水害が酷かったらしい。それで、人柱を立てて、堤防を作ったんだよ。人柱ってわかるか?」

Yは言った。

「生贄えってことだろ?」

「そう」

「あの場所でそんなことが・・・・・・」

俺は予想だにしない話に唖然とした。

「まあ昔はそんな珍しいことでもなかったと思う。地方なら何処かしらあるんじゃないか?それで川の神に・・・・・・女の人の首を捧げたって話らしい」

「まさか、それであのシミが出来たっていうのか・・・・・・?」

「わからん・・・・・・どういう経緯で、その人柱が決められたかどうかまでは、さすがに知っている人はもう居ないだろうし、資料なんて見つからないし・・・ただ、いつ頃からか、あの地下道の手のようなシミには、良くない噂が経つ元になった『何か』があったんだろ?俺が傘で突くより前に」

「とても信じがたいけど、それで・・・・・・俺が見たあの犬の死体に首が無かったのは・・・」

「本当にそうなのかは解らんけど、俺は、少なくとも身代わりになってくれたんじゃないかと、勝手に思ってる」

「じゃあ、あれは・・・・・・あのシミは『ホンモノ』だったってことか・・・・・・?」

T君はそれ以上語らず、俺も口を閉ざしていたとき、中学時代からの友人が問いかけてきた。

「ところで、もう一人傘で突いた子がいたんだよな?その人は今は?」

そのもう一人の彼は、中学からは別の学校だったので、小学校卒業後は一度も会っておらず、実家も引っ越して連絡先もわからないので、その後どうなっているのかは知らない。

少なくとも当時は何も無かったので、たぶん大丈夫だとは思うが心配だ。

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