それは女性物のカツラだった

カテゴリー「心霊・幽霊」

祖父の七回忌だったと思う。
実家は海に近い田舎町。
近くには漁港があり、潮の流れが速くて海水浴はできなかったが、景色のいい砂浜もあった。

さて、法事は朝から坊さんが来て始まり、午後は親戚一同で酒を飲みながらの食事になった。
大人たちは盛り上がっていたが、僕はすぐに退屈した。
それで、年の近いいとこと2人、海の方へ散歩することにした。
母親には夕方家に帰るから、遅くならないうちに戻るよう言われた。

僕らは砂浜をぶらぶら歩くのにすぐ退屈して、漂着した木片とボールを使ってバッティングをやり出した。
小学六年生のいとこが海を背にしてボールを投げ、僕がそれを打った。
ボールは波が押し返すのだが、当たりがよくて沖に流されたりもした。
砂浜に落ちているボールにも限りがあって、それを探すのも一苦労だった。
2人してボールになりそうなものを探していると、いとこが僕のことを呼んだ。
変なもの見つけたと言う。

それは女性物のカツラだった。

いとこはそれを手にとり、笑いながら振り回したり、足で蹴ったりした。

「やめろよ、気持ち悪いから。それよりボール探そうぜ」

僕は相手にしなかった。

するといとこはふざけて、そのカツラをかぶってみせた。
ちょっと気味が悪かった。
その幼い顔つきが、カツラのせいでなんだか急に大人びて見えた。

「いい加減にしろ。もう帰るよ」

海は夕日でオレンジ色に照り返していた。
波の音が大きくなったような気がした。
この時の胸騒ぎが、後に的中することになった。

祖母の家に戻ると、何人かの親戚はすでに帰っていた。
うちも母親が車を運転するので、その日のうちに帰る予定だった。
いとこの家族は一泊するとのこと。
僕は母親にせかされ、仏壇に手を合わせた。
なぜかいとこも後についた。
それからちょっとして、僕は先に車に乗り込んだ。
カーラジオを聞いていると、母親がやってきた。

「あんた、○○くんと何か食べたの?さっき突然気分が悪くなって、吐いちゃったのよ」

そこから大変だった。
母親とおばさん夫婦は車でいとこを病院に連れて行った。
僕は何があったか聞かれたのだが、見当もつかない。
その様子を傍で見ていた近所のおばあさんが、何事か祖母と話している。
不安が募っていた。
いとこは真っ青になり、ガタガタと震えていたし、大人たちはアレルギーショックについて深刻そうに話していた。
その時だった。

仏壇の前の花瓶が前触れも無く倒れた。
その場に居合わせた全員が驚いた。

「実は、・・・・・」

僕は喉まで出かかっていた言葉を口にした。
砂浜に落ちていたカツラのことだ。

大人の男性は眉をしかめたが、近所のおばあさんや他の女性は熱心に聞いていた。
そのカツラを今すぐお寺に持って行った方がいいと言ったのは、そのおばあさんだった。

おばあさんが電話すると、ちょっとヤンキーぽい若者二人がやって来た。
高校生の孫と彼の友人だった。
事情を聞くと、砂浜まで一緒に行ってくれるとのこと。
日は暮れてすでに暗かった。

原付とバイクに乗って、僕らは砂浜へ向かった。
港の灯台が微かに見えるだけで、辺りは真っ暗だった。
バイクを止めて松林を通り抜ける途中、その高校生達は話し始めた。
どうやら一年近く前、浜に死体が流れ着いたらしい。
身元不明、多分国籍も不明、救命具を付けた上半身だけだったという。
下半身はフカや魚に食べられ、顔の肉もほとんどなかったらしい。

「あれは男だから、そのカツラは関係ないだろう」としゃべっていた。

僕は激しく後悔した。逃げ帰りたかった。
懐中電燈を持つ手は震え、集中してカツラを探す余裕はなかった。

「ここらへんだと思う」

本当は暗くて全然分からなかった。
二人は探索に熱中して、あまり怖がっていないみたいだった。
僕は彼らについて歩きながら、背後が気になってしょうがない。

「おい、これじゃねえのか?」

友人の方がカツラを見つけた。
発泡スチロールやビニールなどの合間に、それは転がっていた。
まるで干からびた海藻のように見えた。
安堵して早く戻ろうと急ぎ足になった時だ。
突然、海の方から悲鳴のようなものが聞こえた。

三人驚いて振り返ると、月明かりの下、波打ち際に真っ暗な人影があった。
二百メートルくらい先に立っていて、手招いているように見える。
僕らは声を上げて走り出した。
バイクを止めた道路わきまで来て、おばあさんの孫が言った。

「やばかったな。ありゃ幽霊だったよ」

片方の高校生が腕をさすりながら答える。

「鳥肌立ってる。・・・・近寄ったら海に引きずり込まれてたな」

おばあさんの指示に従い、僕らはカツラをあるお寺に持っていった。
親戚のおばさん、祖母、あのおばあさんは待機していた。
すぐに住職が仏壇にカツラを供え、読経を始めた。

同じ頃、いとこは緊急治療室にいて、チアノーゼ?みたいな症状を起こし、体温が危険な状態まで落ちていたそうだ。

結局、真夜中になっていとこの病状は回復した。
後日、祖母から伝え聞いた住職の話では、浮かばれない無縁仏の霊が、一族の賑やかな法事に嫉妬したのだろう、ということだった。

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