本に載ってた話でもいいのかな?
昔図書館で借りた、心霊体験談を集めたような本だった。
語り手Aの体験談。
Aには高校の頃のクラスメイトにBという男がいた。
2人は割と仲が良くて、帰る方向も同じだったのでよく一緒に帰っていた。
2人ともオカルト好きで怪談話もよく知っており、帰り道は怖い話大会になることが多かった。
その日も一緒に帰っていたんだが、Bは途中で腹が痛くなったらしく、通りがかった公園内のトイレへ駆け込み、残されたAはトイレの前で待っていた。
しばらくすると、Bは血相を変えて出てきた。
B:「あいつはどこ行ったんや?」
A:「あいつって誰だ?」
聞くと中学生くらいの男が出ていったはずだという。
Aはトイレの前でずっと待っていたのだが、そんな男はもちろん見ていない。
Bの話はこうだった。
小便器で用を足していると、「トントン」と個室のドアをノックする音が聞こえた。
振り返っても、個室の前には誰もいない。
”あぁ、紙がないから内側から叩いてるんだ”そう思ったBは、用を足した後に閉まっている個室のドアをノックしてみた。
しかし、反応はない。
試しに取っ手に手をかけてみたら、鍵は掛かっておらず、ドアを開けると中には誰もいなかった。
”おかしいな”と思いトイレを出ようとすると、入口の端から左半分だけ顔を出した、学生帽を被った中学生風の男がじっとBを見ていたという。
”えっ”と思った瞬間顔はそのまま右横に滑るように消えていった。
”あいつはいつトイレから出ていったのか?”そう思ったBはAを問い詰めたという。
しかしAは本当に何も見ていなかった。
ずっとトイレ前に立っていたのだから、見逃すはずはなかった。
AはBの見間違いだろう、と気にも留めなかったが、Bは「絶対見た」と納得していない様子だった。
それからおかしなことが起き始めた。
休み時間にBがトイレに立つ等して何かしら教室を出ると、決まって入口ドアの端から顔を左半分だけ出し無表情でAをじっと見つめては、顔を引っ込ませるようになったのだ。
Aは驚いたが、Bの体験を冗談扱いした自分に怒っているのだろうと、ふざけているのだと思った。
しかし、それは何日も続いた。
無表情で何度もじっと見つめられると、さすがに不快だ。
そこでAはBをとっちめた。
A:「入口から顔出していたずらするのはやめろ」
するとBはきょとんとして「俺そんなことやってない」と答えた。
「ふざけんな」と喉から出かけたが、確かにおかしいことはあった。
Bは顔を半分だけ出すが、その体勢なら肩も一緒に見えていないとおかしいはず。
肩を出さずに平行に顔を覗かせることは、とても人間ができる体勢ではないと思われた。
その日は移動教室があった。
Aは何となく、少し前を歩くBに注意を向けていた。
入口から顔を出しているのは、Bじゃなかったら誰なんだ?
先行くBが廊下の曲がり角を曲がった瞬間だった、廊下の角からやはりBの顔が半分だけヌッと覗いた。
そしてやはり、生気のない目でAをじっと見つめていた。
しかし、いつもと少し違っていた。
Bの顔は、届くはずもない天井すれすれのところから出ていたのだ。
Aは驚愕したが、Bを追いかけて曲がり角を曲がった・・・目の前には平然と歩くBの姿があった。
Aは心底ゾッとした。
その日からAは、Bが教室を出る時は入口は絶対見ないようにした。
特にBの身に何かが起きることはないまま月日は流れ、2人は高校を卒業し同じ都市内にある大学にそれぞれ進学することになった。
学校同士が近いので下宿先を2人で探すことなり、なかなか良さげな物件を発見。
物件の下見ということで、ABと不動産屋と3人で件のアパートを訪れた。
その物件は割と築年数も浅く、最上階の小奇麗な部屋だった。
家賃も安い。
ABは感動、不動産屋もニコニコ。
ここを契約しようか、と話している最中ふと気付くとBの姿がない。
ワンルームなのにどこへ?と慌てるAと不動産屋。
2人が何となくベランダへ目をやると、ベランダの左端からBの左半分の顔だけ、スーッと現れた。
何やってんねん、とAが声をかけようとしたら「あんなとこ足場ないのにどうやって・・・」と、不動産屋が口にした瞬間Bの顔半分が高速で下にスライドしていった
勿論Bの死は自殺ということで片付けられた。
現在でも動機は不明のままである。