『見える』体質に感謝した

カテゴリー「心霊・幽霊」

友達が泣いていた。
声も出さずにポロポロと涙を流して・・・。
そして俺を見てこう呟いた。

「死にたい・・・・・・。」

あれは高校に入って初めての夏休みの事だ。

俺は、先輩に紹介されたラーメン屋でバイトをする事になっていた。
『働いて自分で金を稼ぐ』というのが大人に近づいたようで、なんだか誇らしい気分になった。
時間には少し早いが、俺はラーメン屋の裏口から入って行った。

俺:「あ、あの!今日からお世話になります、雀です!」

緊張しながら挨拶すると、すぐに店の親父さんが出て来てくれた。

親父さん:「あぁ、雀君ね。今日からよろしくな!」

一見怖そうに見える親父さんだが、とても優しい人だと先輩が言っていた。
確かにそんな感じがして、俺は少しほっとした。

親父さん:「もう一人バイトの子がいるから、色々教えてもらいな?」

そうして紹介されたのが、俺と同じ高一の『あきら』だった。

俺達はすぐに打ち解け、バイト歴では少し先輩のあきらに仕事の手順なんかを教えてもらった。
初めての立ち仕事は結構きつく、初日は足が痛くて仕方なかったが「すぐに慣れるよ。でも一週間は辛いかな。」と、あきらは笑いながら、俺を励ましてくれた。

体が慣れてくると、山のようにある皿洗いも苦にはならなくなった。
こうしている間にも、「自分はお金を稼いでいるんだ」と思うと辛いどころか楽しくなってくる。

休憩中には、あきらと二人でよく「バイト代が入ったら」の話をしていた。
俺もあきらも、人生初の給料だったので夢ばかりが膨らむ。

あきら:「俺さ、バイクの免許取りたいんだ。雀は?」

俺:「俺か~?俺はまず服を買いに行って・・・・・・、あと美味いもんを食いに行く!」

そんな事を話しては笑いあった。

あきら:「免許を取ったら、兄貴がバイクをくれるんだ。お下がりだけどな。」

そう嬉しそうに話すあきらを、俺は少し羨ましいなと思ったりした。

忙しい毎日はあっという間に過ぎて行き、夏休みが終わった。
俺は引き続き週に何日かバイトをする事を決め、あきらは辞めていった。

あきら:「今度絶対に遊ぼうな!」

そう約束をして・・・・・・。

しかし、その約束が果たされる事はなかった。
そろそろ秋になろうかという頃、バイト先に行くと親父さんが俺を店の外へと連れ出した。
何事かと思っていると、親父さんが言いずらそうに「あのな・・・・・・あきら君、亡くなったらしいんだわ。」と俺に告げた。

一瞬何を言っているのかわからなかった。

俺:「・・・・・・は?」

俺は三回程、そんな風に繰り返していたと思う。

親父さん:「雀君はあきら君と仲良かったからな・・・・・・。ちゃんと教えておこうと思ってな。」

親父さんは一度空を仰いでから、静かに話し始めた。

親父さん:「あきら君は家に帰る途中に、泥酔して道路に寝ていたお爺さんをバイクで轢いてしまったそうだ。そしてそのまま逃げ、自分の家のマンションの屋上から身を投げたらしい。発見者は・・・・・・お兄さんだったって・・・・・・。」

なんだか親父さんの声が遠くに聞こえる。
信じられなかった。

あきらが死んだ・・・・・・?

確かに二日くらい前、そんな内容のニュースが流れていたのは知っていた。
でもまさかそれが自分の友達だなんて、俺は想像すらしていなかった。
呆然とする俺を気遣った親父さんが、「今日は休め」と家まで車で送ってくれた。

何故か涙は出なかった。
ショックが大き過ぎると人って泣けないんだな・・・・・・なんて、部屋で一人そんな事を考えながらその日は寝ずに過ごした。

翌日、俺は親父さんと一緒にあきらの葬式へ行った。
ひっそりと行われたその葬式で、あきらのお兄さんが柩にしがみつき泣いているのを見た。
そして、ひたすら自分の事を責め続けている。

「俺がバイクなんてあげなければ・・・・・・」
「俺が、免許を取れなんて言わなければ・・・・・・」

あまりに痛々しく、見ていられなくなった俺は「献花してきます。」と親父さんに伝え外へ出た。

用意してきた花を手に、あきらが身を投げたという場所へ行くと、そこには既にたくさんの花が置かれていた。
花を置き顔をあげると、少し離れたところに生前の姿そのままのあきらが俯きながら立っていた。

あきら・・・・・・!

俺はどうしてもあきらに伝えたい事があった。
この時程、自分の『見える』体質に感謝した事はない。

俺:「あきら・・・・・・あきら!」

俺がフラフラと近づくと、あきらは顔を上げ俺の方を見た。
そして声もあげずに、涙を流して泣いていた。
それを見て俺の目からも、急に涙が溢れ出してくる。

俺:「なんで・・・・・・なんで死んじゃったんだよお前!一緒に遊ぶって、約束したのに!」

悲しくて悔しくて、俺は声を出して泣いた。
そんな俺を見て、あきらは無表情のまま小さな声で「死にたい・・・・・・。」と呟いた。

俺:「あきら・・・・・・、お爺さんな、助かったんだって。足とか肋とか折ってるけど、助かったんだって!」

俺がそう叫ぶと、あきらは初めて表情を崩した。
そして心から安堵したように、一度深く息を吐き出した後徐々に消えて行った。

あれから何度かあの場所へ足を運んだが、あきらの姿を見る事はなかった。

俺の友達は、行くべき所へ行けたのだろうか・・・・・・?

どんな理由があるにせよ、あきらのやり方は間違っていたと俺は今でも思う。
あいつに生きていて欲しかった。
生きる道を選んで欲しかった。

しかしあの事を自分に置き変えて考えると、はたして16の少年だった自分が正しい選択を出来ただろうか、と考えてしまう。
大人になった今も俺は答えを出せずにいる。

これから先も、きっと答えはわからないままだろうと俺は思う・・・・・・。

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