調子乗りの結末

カテゴリー「心霊・幽霊」

中学生の時、修学旅行で広島へ行った。

原爆ドームへ向う道中、川に架かった橋を渡っていると、ガイドさんが「原爆で大火傷を負った人々が水を求めてこの川に殺到し、大勢がこの場所で生き絶えた」と教えてくれた。
お調子者のKは同じ班の俺やその他の連中に「おい!川に無数の手が見える!人々の呻き声が聞こえる!」などと・・・不謹慎な冗談を言いまくっていた。

勿論Kに霊感など無い。
ただの構ってちゃんである。
一々反応するのは疲れるので、皆でスルーしていた。

旅館で俺はKとその他三名と同室であった。
夜になってもKはずっと「ドームから焼けただれた顔がコッチを見てた」等々、嬉々として語っていて、俺はいい加減ウンザリしていた。

消灯して寝る段になっても「おい窓に人影が!」などとほざいていたが、皆疲れていたので早々に寝息が聞こえてきた。
K以外は前日明け方まで馬鹿話で盛上っていたので寝不足だった。
たっぷり眠っていたKのみ元気であった。

俺は何故か眠たいのに眠れなかった。
Kは眠っている連中にお構い無く10分置きくらいに「天井に顔が」「赤ちゃんの泣き声が」などと宣っていた。

俺は寝たふりをしていたが、何度も寝返りをうっていたのでKに狸寝入りを見抜かれていたのかも知れない。
その内「ブスゥゥゥゥ・・・ブスゥゥゥゥ・・・」という変な息の吐き方をし始めたのでマジで腹がたってきた。
本気のクレームを入れてやろう、Kの反応次第では怒鳴り付けてやる、そう思ってKの方を見た。

その時、俺はドキリとした。
何者かがKの枕元で正座をしていた。

別室の友達が遊びに来たのだろう?
そう思った、思おうとした。

しかし、Kの枕元に座りKの顔を除き込んでいる何者かは、真っ黒な影の様にしか見えず、男か女かすら解らなかった。
友人なら構ってちゃんのKが黙っているハズなどない。
しかしKからは緊張しか伝わって来ない。

「ブスゥゥゥゥ・・・」

変な呼吸音はKが出しているのか?
それとも影の様な奴からなのか解らないが、異常事態が起きている事を告げていた。

俺はすっかりビビって硬直していた。
影と目が合ってしまわない様に目をきつく閉じ息を殺した。

怖くて寝返りもうてない・・・。
目を開けると今度は自分の顔が覗き込まれているんじゃないか?と思えて様子を窺う事も出来なかった。

気が付くと「ブスゥゥゥゥ・・・」という変な呼吸音は消えていた。
奴が消えたのかな?と思ったが、結局目を開ける勇気は出なかった。
そして、いつの間にか眠りに落ち、朝が来た。
俺は「多分夢だったのだろう・・・」と思うようにした。

すると、Kがばつが悪そうに「寝小便漏らした。頼むから誰にも言わないで・・・」と同室の面々に懇願してきた。

K曰く「深夜に恐ろしい夢(黒い人間に追いかけられる)を見てチビってしまった。恐怖の余韻が消えず、濡れた布団から出ることも出来ず朝を迎えた」との事だった。

一瞬、「コイツ漏らしたぞ!!!w」って叫ぼうと思ったが、以降、おもらしのレッテルを貼ったまま生きていくKを哀れに思い、笑う気にはなれなかった。

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