よくある話だが俺の地元には絶対に入ってはいけないという場所がある。
そこは森を抜ける県道の近くにあって、県道からは見えないけど道からそれて森に入れば5分もしないで辿り着ける。
入ろうと思えば簡単に入れるけど、入る気がなければまず入らないような、そんな場所だ。
広さは5m四方程度で、注連縄で囲まれている。
ちなみに、中学校では誰もがその場所を知ってたが、高校では知らないってやつもいた。
そんで、その禁足地にはどういうわけで禁足地になったかとか、入るとどうなるかとかいう由来がまったくない。
俺は物心ついたときから親や祖父母から「そこに入ってはならない」と耳にたこができるほど言われてきた。
同じことを家族親戚のみならず、近所の人や友達の家族や先生からも聞かされたことがある。
しかし今までに、”なぜ”そこに入ってはいけないのかを説明されたことは一度もなかった。
それで、禁足地の由来が気になって中学生のときに調べてみたことがあるんだが、結果は惨敗だった。
クラスメイトには全員聞いたし、そういうことを知ってそうな先輩や年配の先生にも聞いてみた。
今思うと人見知りなのに良く頑張ったなと思う。
しかし、返ってきた答えは皆同じだった。
「絶対に入ってはいけないのは知ってるが、理由は知らない」
当時は誰も知らないのか・・・くらいにしか思わなかったが、今になって不気味なのは「入ったことがある」とか「誰々がそこに入ってどうなった」とか「◯◯学的には云々」とかといった体験談や説明だけでなく「入るとこうなるらしい」とか「何々が関係しているのではないか?」とかの噂や憶測、解釈の類の話すら全くないということだ。
よそから来た先生は同僚や地域の人から「そこには絶対にはいるな、他の生徒にもそう言い聞かせてくれ」と言われたらしいが、大の大人が理由も説明されずにそれを鵜呑みにするのもおかしい気がする。
子供にしたってやんちゃなやつが禁を破ってそこに入ったとかなんとか・・・そういう噂くらい普通はあるんじゃないだろうか。
最近それがまた気になりだして聞く人の層を広げてみたり、郷土資料をあたったりと色々調べてみた。
自分でも何でそんなにやる気が出たのかってくらいだった。
同じ答えしか返ってこないのに、自分の時間割いて見ず知らずの人を訪ねたり、ごねる公務員を説得して資料を出させたり、普段の俺からしたら狂気の沙汰だ。
そこまでしたのにというか、やはりというか、結果は中学生のころと大して変わらなかった。
皆口をそろえて「絶対に入ってはいけないのは知ってるが、理由は知らない」
そればっかり。
俺の後ろにカンペ持った奴でもいるのかってくらいそればっかり。
資料のほうも地域史、地誌関係の本、地元の新聞などを調べたがそこのことが記載されているものは発見できなかった。
触れてはいけない話題なのだろうかとも思ったが、本や新聞に書けないほどの禁忌であるにしては調べてて邪険にされるということもなかった。
ただ、一応収穫はあった。
子供の頃は考えつかなかったが、土地には必ず所有者がいて、注連縄についても必ずそれを設置した人物がいる。
そこをあたれば、少なくともいつころから禁足地とされていたのかくらいはわかるだろうと思い、役所に頼み込んでようやくそれを突き止めることができたのだ。
しかし、結果は期待したようなものではなかった。
まず、所有者は市だった。
そこらの森はもともと誰が所有していたとかはなく、入会地のようなもので、明治期に市町村有になったものだった。
次に、注連縄を張ったのは地域の神社の神主さんだった。
この人に聞けば何かわかるかもと思ったが、期待に反してその答えは「絶対に入ってはいけない場所で、それとわかるように注連縄を張れと先代に言われた。それ以外のことは先代も知らないようだった」という、ほかの回答に「注連縄を張れと言われた」が追加されただけのものだった。
注連縄は痛んだり、切れたりしたのに気づいたときに張り直してているということで、それで何かを封じてるとかいうわけではなかった。
結局、この禁足地の由来については全くわからないままだ。
そして、今では俺が子供に言い聞かせている。
「そこには絶対に入るなよ」
理由を聞かれてももちろん答えることはできない。
なぜなら俺もまた何も知らないからです。
ずっと言われ続けたせいか、俺自身もそこには絶対に入ってはいけないと信じ込んでいるようだ。
現に異様なやる気で調査はしても、真相に迫るために現地調査をしようって気には全くならない。
理由も事件も噂さえもないく、資料にも記されていない禁足地に「絶対に入ってはいけない」ということだけがいつからか語り継がれている。
これはいったいどういうことなのか。
こんな場所はほかにも普通にあるのだろうか。
そんな気分でこの話を投下したが、正直言うと、不自然なほどに噂にもならなかったこの話を、ここに投稿してもよかったのかとも思っている。