裏拍手の怖い話

カテゴリー「心霊・幽霊」

カップルが海にドライブに行った。

砂浜に降り立ち、しばし散策。
日が落ちるにつれ黒さを増していく海は、二人に向かってぽっかりと口を開いてゆくようだった。

寒気を感じた女がふと見やると、浜沿いの遠くの方に明かりが見える。
ゆらめいていることから察するに、炎の明かりらしい。

遠目に見ると、どうやら炎を囲んで大人数で宴会を催しているようである。
少々不審に思ったものの、あんまり楽しげな様子なので二人は吸い寄せられるように彼らの方へ近づいていった。

中年とおぼしきおっさん達が炎の点いたやぐらを囲んで騒いでいた。
酒に酔っているのだろうか、鼻を赤くしたおっさん達はとても楽しげに民謡のようなものを歌っている。

「こんばんは。何の宴会ですか?楽しそうですね」カップルの男が話し掛けてみた。
(田舎の話である。
見知らぬ人に話し掛けるのもそう珍しい事ではない)
しかし、おっさん達は聞いていない様子である。

宴会のボルテージがピークに達したところで、何人かのおっさんが踊り始めた。
残りは座ったままで拍手をしている。

ふと、違和感を感じた。
彼らは手の甲で拍手していたのだ。
カップルがそのことに気づいた途端、おっさん達が黙った。
踊っていた者も動きを止めた。

気付けば既に潮が満ち、一部のおっさん達は寄せる波に浸かっている。
それなのに微動だにせず、ただただ炎を凝視していた。

気味悪くなったカップルはその場を逃げるように立ち去った。
大分離れてから振り返ると、宴会はまた始まっていた。
もう楽しげな宴会には見えなかった。

地元では「裏拍手」は死人の拍手とされている。

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