うぎゃー首、首、首

カテゴリー「心霊・幽霊」

心霊スポットの話。

俺が高2の頃だから今から7年前のことになるけど、地元に心霊スポットがあったんだよ。
俺の家から歩いて二百メートルくらいのところ。
でかい建物じゃなくて民家の廃墟なんだけど、住宅地からちょっと外れた崖の下にあって家の前が小さな林になってる。
家自体はどこの道路にも面してなくて、林からは細い私道を通らないと行けない。
昼でも暗くてちょっと薄気味の悪いとこではあるけど、地元ではそんなに幽霊の噂とかはなかった。

俺も中学生の頃に壊れた玄関から当時の悪友と何回か入ったことがあるけど、2階建てで部屋数は6つくらいだったな。
家財道具がけっこう残ってて、壁には十数年前のカレンダーが貼ってあるし、何かの領収書類や雑誌がほこりのたまった床に散乱してる。
仏間もあって、仏壇には位牌も残ってたし、鴨居には和服のじいさんの白黒写真もある。
夜ならそうとう気味が悪いだろう。

ここがコンビニで夏に売る心霊DVDで一家心中の家として紹介された。
もちろん住所なんかはぼかして書いてるんだが、内部の写真とか見れば間違いなくその廃墟なんだよ。
親父に聞いたところ、その家の人らは借金で夜逃げをしたんで、少なくともここでは心中の事実はないはずだと言ってた。

んでDVDで紹介されてから、ちらほらと夜に見に来るやつらが現れだした。
何でわかるかというとその家の前の林の中にときどき派手な車が停まったりしてるし、それに夜中に懐中電灯の光が見えたりうるさい話し声も聞こえてくるから。
町内会で問題になってその家の取り壊しを権利者に掛け合おうかみたいな話になってた。

部活の帰りに当時の友人と土手の自転車道を走ってたら、河原にマネキンの首が落ちてるのを見つけた。
けっこうゴミの不法投棄があるところで、そういうものの一つなんだろうけど、珍しいんで自転車を止めて見に降りたら長い髪つきの女のマネキンの頭部で、たぶん昔の美容院なんかにある発砲スチロールのやつ。
これを見て友人が「これ使って、あの廃墟で探険に来るやつらをおどかさないか」と突飛なことを言い出した。

今にして思えば馬鹿なことをしたと思うけども、当時はそのアイデアにわくわくした。
んで、心霊スポット探索に来るやつは土曜の夜が多いからってんで、金曜の午後部活をさぼって廃墟の横の庭に行って準備をした。
まずそのマネキン頭部に赤黒い絵の具をかける。
釣糸を玄関前の繁みから二階の窓に渡し、マネキンの頭部にフックを差し込んで糸に通す。
さらにマネキンには別の糸をつけて、それを家の横から引っ張ると、繁みからマネキンの頭部が飛び出して糸を駆け上っていき、二階窓に飛び込むように工夫した。

マネキンが飛び出して上に登っていくまでは簡単だったが、窓には2回に1回程度しか飛び込まなかった。
家の中から引っ張ればうまくいくんだろうが、それだとやっぱり怖いし、探険にきたやつらとケンカになってもマズイだろうと思ってそこは妥協した。
家の横から引っ張って、それに気づいたやつが驚いたら塀の内側を通って逃げて帰る手はずにした。
で、仕掛けはそのままにしてひとまず帰った。

土曜の夕方に友人が俺の家に来て部屋でゲームとかしながら夜を待ったんだけど、なんとなく二人とも気持ちが萎えてきた。
やっぱり怖いのもあるし、それよりも誰も人が来ないつー結末になるのが嫌だなと思い始めたんだな。
友人は俺の家に泊まることにしてたんで、夕食を食ってそれでも9時には家を出て懐中電灯を持って廃墟に向かった。
これから10時まで待って誰も来なかったら止めて帰ろうつーことにした。

で、廃墟に着いたら仕掛けはそのままになってた。
うまく動くか試してみようという話もしたけど、窓に飛び込むと取りに入らなくちゃならないんで止めた。
季節は10月で、ここらは街灯が林の手前の道にあるだけで懐中電灯を消すとほぼ暗闇。
虫があまりいないのをいいことに家の横のたぶん風呂場の窓とブロック塀の間のせまい場所に座って、友人とタバコを吸ったりしながら待ってた。

9時40分頃になって、探険のやつらが来だした。
車は一台だけでライトをつけたまま林の入り口に停まった。
声だけ聞こえてくるんだけど、どうやら男二人、女二人という感じ。
車で来てるんだから俺らより年上だろう。
なるべく引きつけて玄関の前まで来たら引っ張ろう・・・で、悲鳴があがったらこっそり逃げ出す。
また気持ちがわくわくしてきた。
その頃には目が闇に慣れていて友人の顔もうっすらと見えるが、どうやらこいつも同じ気持ちのよう。

探険のやつらはかなりうるさくしゃべり合ってるようで俺らは怖いという気持ちはなかった。
塀の内側に入ったらしく懐中電灯の光の筋が横に走るのが見えてくる。
玄関前に来た感じがしたので友人が思いっきり釣糸を引っ張った。

「ぎゃー」

「うぎゃー首、首、首」

どっちも女の声。

「嘘だろーおい待てよおい」

ダダダダッと何人かが走って逃げていく音。
やった、と思った!
そして友人が先頭になってそろそろと庭を抜けて裏口にまわった。

裏は生垣になっててそこを飛び越えるとすぐ山なんで、もう一度塀の外側をまわって廃墟の前に出てから家に戻る。
俺も友人も満面の笑みで大声で笑い出したいのをこらえている。
玄関の横まできたら停まっていた車がいきおいよく発進して行った。
俺と友人は大爆笑してハイタッチ。
家の正面に立って懐中電灯で照らすとマネキンはうまく二階の窓に飛び込んだ様子だ。

さて帰ろうかとしたら、真っ暗な窓から白い細い手が出て俺らの足元にぽーんとマネキンの頭部を投げてよこした。
それはマネキンの軽さではなくドジッという重い音を立てて落ち、地面の上でぐるんと向きを変えると両目を開いた。
それからどうやって家まで帰ったか覚えていない。
ものすごく息を切らしていて俺の家族からは変に思われた。
その夜から俺らは二人そろって熱を出し、家族が迎えに来た友人は翌日入院までした。

しばらくたってから昼にこの話をした別の友人ら数人と見に行ったら、家の前に俺らが拾ったマネキンの頭部が泥まみれになって転がってるだけでそいつらには作り話だろうと言われた。

その後俺は特に霊障らしいものはない。
ただ入院した友人は大学のときに聞いたことのない難病にかかって入退院をくり返している。

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