※このお話には【すべてはヤツの所業(前編)】があります
その時自分の頭はからっぽで、恐いとすら感じていなかった。
しかし、どうにかしよう、という解決案を考えてもいなかったはずだが、勝手に自分の口が動いた。
自分:「なぜこんなことをする」
子供:「お前が我が存在を無きものとしたからだ」
子供は確か、そう言った。
子供らしからぬこれまた古めかしい言い回しだった。
声音も通常の子供の声音とは違う低い歪なものだった。
すぐには言われたことが腑に落ちなかった。
が、自分が便秘と言って笑い飛ばしたことだと気がついた。
不眠が便秘のせいだと言う発言はその子供(幽霊)の存在の否定につながるからだろう。
次の行動がまた自分の頭とは別に体が動いた。
繰り返すが自分は何も考えていなかった。
自分がいつも思考している頭よりも少し上のところ、胸に響かないところで(誰かの?)何かが沸騰したらしい。
これもまた現実にはあり得ぬ素早さで、視認できるその子供の足首に両手でガッと飛びつき、「消えろ!消えろ!消えろ!」と何度も心の中で繰り返した。
口には出さず、ひたすら念じていた。
すると、嫌な笑い方で弓なりに唇を歪ませたままのその子供が、上の方から消えて行ってしまったのだった。
しかし両足首をつかんでおきながら何だが、子供は絶対自分と正面から向かい合わなかった。
消える時も横向きのままだった。
とにかく嫌な笑いだった。
胸に一物不穏なものを含ませつつ消えて行ったように見えた。
そのまま起きた。
汗をかきづらい体質の自分が、冷や汗びっしょりになっていた。
それから手近なノートに覚えているだけの今の出来事を書き付けておいて、また寝た。
翌朝、結婚式に出席するために出かけたTから電話が来た。
もちろん昨夜の夢のようなうつつのような妙な出来事を全て話した。
便秘だと笑い飛ばしたこと、信じなかったことを謝りつつ報告した。
それでも夢を見ただけだと言う可能性ももちろん捨てきれないのだが、とりあえず子供が出てきたところ以外は全てTの話と一致していた。
Tの方は出先では例の経験(虚空に引っぱり込まれる)はなかったと言う。
それから一人で休日を過ごし、翌日Tが帰って来ることになっていた。
昨日と違い入眠時には何も起こらなかったが、起きる直前に夢を見た。
無言でTが帰ってきて、ニヤニヤ笑っている口元が見える。
そしてニヤニヤしたまま自分の寝ている枕の下に両手のひらを差し入れて、頭を持ち上げて来た。
目を閉じているはずなのに嫌なニヤニヤ笑いがはっきり見えた。
ただし無言だ。
無言でニヤニヤしながら頭を持ち上げ続けている。
「何いたずらしてるんだよ、よせよ・・・」
そう思いながら目を覚ますと、自分の頭を支えていた手のひらの感触が、そのまま枕に変わった。
なんとなくヤツ(子供幽霊)が嫌がらせに来たんだな、と思った。
もちろん数時間後帰ってきたTにそれも話をした。
その後はその現象が前ほど頻発しなくなった。(全く無くなりはしなかったが)
ややしばらくして、自分が通勤中に事故ってしまった。
車体がひっくり返ったにもかかわらず自分は無傷だった。
そうすると実家から「実家に戻って来い!」がうるさくなった。
その時思ったのは、なんとなくヤツがTと自分を引き離したがってるような気がした。
自分がいるとTを引き込むのに厄介だと思ったのだろうか?というかそう考えると親知らずで入院したのも同じ発想の元、ヤツが仕組んだのではないか?とも思った。
実家のカエレコールをかわしつつ、廃車になった自分の車の代わりに来る新車を待ちながら代車で通勤していたある日曜の朝早く、「ドカーン!!」というものすごい大音響が鳴り響き、何事!?と寝ぼけ眼をこすりながら窓を開けると・・・台形のアパートの脇に止めてあった自分の代車とTの新車が・・・路上に斜めに飛び出していた。
どうやら後ろに止めてあったTの車に三叉路を猛スピードで曲がった車がぶつかり、その反動で自分の代車に玉突き衝突したらしい。
自分の代車は道路の真ん中まで飛び出していた。
やられた!と思ったが当の犯人は当て逃げして行ったのだった。
しかし暫くして両親とともにしょんぼりと現れて(親の車で遊んでいたカー用品店の店員だった)とりあえず示談になったが、自分は代車、Tの新車は全損。
下取り額は既に低く、かなりの出費でまた新古車を買うはめになった。
実家のカエレコールがますます激しくなったが自分は無視していた。
ただこのままここに住み続けるのはヤバいかも、と思いはじめたので新しい物件を探して二人とも隣町に引っ越した。
すべては”ヤツ”の所業だと思っている・・・。