死の間際に書いた『死ね』

カテゴリー「心霊・幽霊」

中学生の時の話です。

その時、私は陸上部に所属していました。
夏になると恒例とも言える合宿が待ち構えていたため、お金のなかった我が中学校は近所にある毎回お馴染みの少年自然の家へ行きました。

練習終わって「あー疲れた」ってみんな自然の家に戻ってきて、男女で二つに部屋割りして(あわせて五人だけでした)、飯を食べに行きました。

この自然の家って食事の時間が決まっていて、合図の音楽を鳴らしてからみんな食堂に集まってくるんです。
まぁ、そん時は五人しかいなかったからのびのびと使わせて頂きまして。

そして食堂の片付けをして、部屋に戻る・・・前に、「探検しよう!」と誰かが言い出しました。

実は私たちが今でもお世話様になっているこの自然の家。
妙な噂があるんです。
それは、ある一室で首吊り自殺をした女性がいて、死の間際に書いた『死ね』という文字があるとかその他もろもろ。

私はあまり信じない子だったので、恐怖感よりドキドキの方が強かったためわくわくしながらその部屋の前に立ちました。
外はまだ明るかったけど、ドアについたスリガラスの向こうは真っ暗で、カーテンでも閉めてあるのかと思い、ドアを一気に開けました。

・・・一瞬心臓が止まったと思いました。

その部屋の中に、二人の人がいたんです。
ひとりはロングカーデにロングスカートの女の人で、もう一人は真っ黒な長袖長ズボンを着ている男の子で、足を骨折しているのか、ギブスで片足を固めていました。
その二人の親子は突然の乱入者を見つめるばかり。

私は(やっべー、一般の人んとこに押しかけてしまった)とあわあわ状態。

そしたら、私の隣にいた女の子が、「すみませんでした」と謝りました。
それにつられて全員深々とお辞儀をする始末。
その後男子が「そこのベッドに落書きってありましたか」と聞きました。
”あの”、死ねの文字です。

その親子は、「そんなものないよ」と言うと再び私達をジッと見てきたのです。

まさか部屋に入れて下さいなんて言えませんし、その親子の視線がやけに気味悪かったので、スタコラと退散しました。
部屋には明かりがついていたはずなのに、再び廊下からドアのスリガラスを見ると、最初同様真っ暗でした。

何かおかしい、と言うことに気づいたのは、後日でした。

例のごとくたった五人の部活で、夏だから怖い話しようみたいな流れになったのです。
それで色々ちまちま話しながら盛り上がっていた時に、ふと、もう一人の女子が、「そういえば、あの親子ってなんやってんろうね」と言い出しました。
すかさず私が、「思った!っていうか、何で中、電気ついとったんに外から見たら真っ暗やったん!?」と言いました。

そういえばおかしなことだらけなんです。
季節は真夏。
もちろん、私たちの格好は半袖短パンです。
しかし、あの親子、あのくそ暑い中、冬に着るような長い上下を着ていたんです。
さらに、部屋の中のどこにも荷物は無く、ベッドメイキングもされていませんでした。(もちろん他に置ける場所なんて存在しません)

そして、男の子は足をギブスで固めていたのですが、部屋のどこにも松葉杖はありませんでした。
夕食にもいない、掃除もいない。

あの親子は一体何だったのでしょうか。

私たちが騒ぎながら入ってくるのをまるで予想していたかのように、部屋の真ん中でドアを見つめながら座っていたあの親子が不思議でなりません。

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