高校時代私には友達がいた。
友達と言っても時々お昼を一緒に食べたり遊びに行ったりする程度の友達。
その子はサンローランのベビードールが好きでよくつけていた。(化粧や香水をつけてくるのは禁じられていたが、守っている人のほうが少なかったw)
ある時からその子からベビードールに混じって不思議な香りがするようになった。
甘いような苦いような妙に鼻につく・・・不思議な香りだった。
その香りは日を追うごとに強くなり、ある日を境にベビードールの香りは消え、その子からはその甘く粘っこい不思議な香りしか香らなくなった。
それは花の香りでもなければ果物の香りでもないような・・・強い印象だが正直どこか不快な香りだった。
あまりにもニオイが強いので、ある日思い切って彼女に「香水少し控えめにしたほうがいいんじゃない?それと私は前のベビドのほうが好きだったな」と、言ってみた。
すると彼女は怪訝な顔で私を見た。
彼女:「私、ずっとベビードールから香水変えてないけど」
Σ(゜д゜lll)エ!
香水変えてなかったのか!
でもじゃあの甘い香りは一体なに・・・?
首を傾げる私を置いてその子はさっさと帰ってしまった。
その発言が気に障ったのだろう、以来、彼女は私を避けるようになった。
私が彼女の訃報を聞いたのは、それから二週間後のことだった。
亡くなった直後、葬儀の時は事故死とされていたが、しばらく経つとどこからともなくあれは自殺だという話が流れ始めた。
住んでいた自宅マンションの7階から飛び降りたのだと・・・。
この話を聞いて私は胸を痛めた。
大して親しくない友達とはいえ、一緒にいてどうして彼女の悩みに全然気がつかなかったのだろう。
そしてそんな心理状態にある彼女に、どうしてあんな無神経な発言をしてしまったのだろう・・・。
私はその場で手を合わせ、彼女の冥福を心から祈った。
二年が経ち私は大学生になった。
この頃は料理も覚え、食事を作るのが楽しくなった。
そんなある初夏の日、私は覚えのある香りを嗅いだ。
妙な粘っこさのある甘いあの香り・・・。
そう、それは高校時代の友達が漂わせていたあの香りだった。
「・・・・・・なにこのニオイ・・・一体なんなの・・・?」
奇妙な既視感に囚われながら、私はニオイの出所を探した。
その香りは部屋の床に放り出してあるバッグから漂いだしていた。
「あ!」
そういえば5日前鳥ひき肉を買って確かそのままにしていた!
慌ててバッグを探ると、子ハエのたかった5日前の鳥ひき肉が出てきた。
そして私はあの友達から漂っていた香りがなんだったのか知った。
あの甘くて妙に粘りのある不思議な香り・・・。
それは腐臭だった。