大叔父が若い頃、友人と山陰にツーリングに行った。
予定より早く帰ってきた大叔父が言うには、鳥取で化け物に遭遇したらしい・・・。
その日の午後、地元客しか来ないような公衆温泉で一風呂浴びて、いい気持ちで走ってたら、道を間違えたそうだ。
それでもどこかへ着くだろうと思っていたら、林道に変わり行き止まり。
あわてて引き返して走っている内に日が落ちた。
岬沿いの山道で野宿などは無理・・・。
海が近いせいで速度を落とせば走れたので、いくつか岬を廻ると町明かりが見えた。
余裕が出てきたのでバイクを止め、小休止を取った。
暫くして、変な気がしたらしい。
崖の下に何かいるような気がしたと。
二人で覗くと、確かに何か、闇が凝ったようなものがいる感じがしたそうだ。
咄嗟に思ったのが密漁。
息を凝らしてみていると、向こうもこっちに気づいたのが判ったらしく、それが崖を上ってくる。
近づいてきている。
下草と木が不自然に揺れて、真っ直ぐ上がってこようとしている。
ぞっとして崖から離れて、刺激しないように明かりを消したままバイクを押し、離れたところでエンジンをかけた。
そのまま町まで行き、駅の待合で旅行客にまぎれて一晩を明かし、翌朝早くに出発。
予定を切り上げて瀬戸内側に抜けた。
その途端、二人同時に高熱。
数日を木賃宿で過ごし、帰ったきた。
大叔父はそれを化け物だと言ってたそうだ。
人間だったら、あんな風に崖は上れないって。
昭和40年代前半の話。