最近なぜか思い出される子供の頃の不思議な体験。
自分が物心ついてから中学生の頃まで、お盆と正月は父方の実家に寄りそこで2~3日過ごして帰るのが毎年の行事だった。
父の実家は山梨の田舎にあり、自営業を営んでいて、母屋と離れがある。
自分たちは離れで寝泊まりするんだが、その部屋に長方形のガラスケースに入れられた日本人形があった。
おかっぱで赤い着物を着た、50~80cm?くらいのもの。
子供の自分には結構大きく見えた。
それまでなかったのに、突然その年から部屋に置いてあった。
見るなり早々、親に気持ち悪い、と言ったのを覚えている。
人形は少し口を開いていて小さな歯があった。
元々あるものなんだろうか。
笑っているのか怒っているのか分からない何とも言えない顔をしていた。
親も気持ち悪がっていたと思うが、口には出さなかった。
次の日、昼間離れで一人ごろごろしていると後ろから物凄い視線。
振り返ると目線の先にあの人形。気持ち悪いのでガラスケースごと90度回して横向きにしてからまたごろごろしていた。
その内寝いってしまい夢を見た。
夢の中で自分は大人の男になっていた。
大人の足と目線でどこまでも続く一本道に立っていた。
両側は坂になっている。
街灯も何もないのに道だけが光っている。
そこを江戸時代の百姓みたいな襤褸を着て、ふらふら歩いてる。
意志に反して足がもつれ、道から外れ真っ暗な坂を転げ落ちる。
雑草が生い茂る土手の段差のようなところでとまって、身体がぴくりとも動かない。
自分は死んだんだ、と思った。
ふいにお経が聞こえてきた。
上の道から誰かが自分のためにお経をあげてくれている。
なんだか嬉しかった。
一人ぼっちで死ぬのは寂しいから・・・。
そう思うと、自分が死んだ大人を見下ろす視点に変わっていた。
知らない人だった。
その人は髪もまばらで口を開けて目を向いて、確実に死んでいた。
そこで目が覚めた。
寝汗をびっしょりかいてた。
・・・変な夢を見たな、と思い、寝返りを打つと人形がこちらを向いていた。
ちょっと笑っていたように見えた。
ガラスケースは90度回したままだった。触るのが嫌だったのでそのままにしておいた。
次の年、人形はまた離れに置かれていた。
明らかに伸びている、髪が・・・。
肩に髪がつきかけている。
人形の髪が伸びるのは普通のことらしいが、自分には気持ち悪かった。
「伸びてるなぁ」と楽しそうに親父が言ったのを覚えている。
その年、伯母さんにそれとなく聞いてみた、「なんなのあの人形?」と。
返ってきた答えが「あー、あれなー。悪いことしてねぇけ?」
その時点で聞くのをやめた。
「大丈夫」、と答えるだけ。
その夜、親戚皆で西瓜を食べながら花火をした。
花火の最中にもう一人の伯母(基本一人暮らしでお盆の時だけ帰ってくる)が、「○○ちゃん(自分)の後ろにAさんがいるよ、来てくれたんかねぇ」とぼそっと言った。
伯母と親父、顔が固まってた。
まぁお盆だしな、と親父が明るく言うと、皆が笑った。
後で知ったがAさんは曾爺さんのことだった。
当時家は相当金持ちだったらしいが、女癖が悪く家庭を顧みない曾爺さんにたまりかねた曾婆ちゃんと爺さんが、夜逃げのように家を飛び出し、そのまま絶縁。
その後曾爺さんは湯水のように金を使って放蕩の最後に野垂れ死んだらしい。
そして自分が見た写真のAさんは、夢で見た「死んだ大人」だった。
次の年、人形がなくなってた。
変な視線も感じなくなり、恐怖感も薄れたので、また伯母さんに聞いてみた。
自分:「あの人形どこ行ったの?」
伯母さん:「悪いことするから、神社に持ってった」
そんなに不思議には思わなかった。
自分:「悪いことってなに?」
伯母さん:「ほらケース入れてたじゃん、あれ勝手に出て夜中歩き回るようになっちゃってさ。まぁそれだけならいいんだけどね、夜中に○○(従兄)が転んで足痛めちゃったから」
話を要約すると、朝になると人形がケースから出て別の場所で見つかることが多々あった。
その度戻してたんだが、誰も心当たりがない。
鍵をかけたはずなのに、その鍵が壊れてスカスカになってる。
「なんなんだろうね」、と話してた頃、従兄が見てしまった。
当時高校生の従兄が、夜中目が覚めてトイレで用を足してると、廊下から微かに音がする。
なんだろうと思って水流してトイレの扉を出た瞬間、いきなりジーンズの後裾が突っ張って前につんのめった。
何かにひっかけたか、と思って見ると、横から人形が手伸ばして裾引っ張ってる。
従兄いわく、笑ってて声まで聞こえた。女の子の声じゃなかった。
太いけど、男と女の中間みたいな声。
その時点で従兄びびって気絶。
朝起きると倒れている従兄と足に重なる人形発見、従兄は足をひねって痛めた。
こりゃいかん、ということで神社に預けた、という流れ。
もっと早くそうすりゃよかったんだが、お婆ちゃんが大事にしていたから持っていくのは気が引けたんだとか。
自分は疑問に思って訊いた。
自分:「どこで買ったのか?」
お婆ちゃん:「いや買ってない、もらってきた」と。
自分:「どこから?」
お婆ちゃんの友達から、その友達はもう亡くなっている。
亡くなるまで抱いて大事にしてた人形を、友達の要望(遺言?)で形見としてもらってきたらしい。
その友達は人形に着物を作ってあげたらしく、何のためにかは分からない。
でもその人形は元々友達のものでもないらしく、その友達も誰かからもらってきて着物を作るように頼まれたらしい。
誰にもらったか、どこで売ってたのか・・・それ以上のことは分からない。
当時子供の自分にとって、ほんのり怖かった話です。