必死で貯金して引越した

カテゴリー「不思議体験」

20歳前後、新築のロフト付きワンルームを借りていたころの話。

パシッ!と肌をひっぱたくような音、施錠された上にチェーンもかかっているドアが開閉する音、キッチンの蛇口からシンクへダラララララ・・・と水が流れ出す音など、音だけで見えないのは幸いだったが、日常的に怪異が起こる部屋だった。

ある日、いつものようにロフトに敷いた布団で寝ていると、開くはずのない玄関のドアがガチャッ、と音を立てた。

施錠、チェーンをかけているかは就寝前に確認済みだ。
開くはずのないドアの開閉音に慣れてしまうのもどうかと思うが、その頃には睡眠欲が優先されるようになっていた。

どうせ音だけでいつも特に害はないし、時計をみるともう午前11時すぎ、昼間だからあんまり怖くないし、別にいいや。

ただし、この日は展開がいつもと違った。

玄関から入ってきた何者かが、室内をドスドスと足音をたてて歩き回っている。

ちっ、うるせーな・・・まだ寝ていたかったのに。
ここは俺が金払って借りてんだ!出てけ!!

心の中で毒づいても、実際に口に出す勇気は持ち合わせていない。
というか、確率はかなり低いが、実は鍵をかけ忘れて寝てしまい、生きた人間=空き巣に入られているという可能性もあるし。
相手が死んだ者でも生きている者でも、俺がロフトに居ることに気付かれるのはまずいことになる予感。

とりあえず、枕元にあった携帯電話をそっと布団の中へ引き込んだ。
空き巣だった場合に即110番通報できるようボタンに手をかけ、階下の何者かに気取られぬように、そっと下の様子を伺ってみた。
狭い室内をぐるぐるドスドスと歩きまわっている者の姿を確認した。

・・・あれ!?意外なことに、そこに居たのは友人Mだった。

Mとの付き合いは長く、この部屋へも何度か遊びに来たので、ここに立ち寄ってくれるのは不思議ではないのだが。
状況的にどう考えてもおかしかった。

ドアは(おそらく)開くはずがない。
無断で入ってきて、無表情に歩きまわっている。
特に会う約束もしていなかったし、目的が分からない。

あれは本当にMなのか、いや、そうではない気がしてきた。

ゾッとした。

布団に潜り込んで携帯を握りしめ、ひたすら自分の気配を消した。

何なんだこれ、何なんだあいつ、早く終わってくれ、早く出て行ってくれ!

室内を歩きまわる音は2~3分ほどして玄関に向かい、ドアがバタン!と閉まる音がして、それで静かになった。

1分ほどしてもう大丈夫だろうと布団から出て、ロフトを降りた。
ドアにはやはり鍵がちゃんとかかり、チェーンもかけてあった。

Mに電話をかけてみた。
携帯ではなく、Mの自宅へ電話をかけた。

Mのおばさんが電話に出た。

Mのおばさん:「あらーKちゃん久しぶり!ちょっと待ってね」と、Mに電話を取りついだ。

M:「K?どうした?」

咄嗟に頭が働かなかったので、「実はかけ間違えただけ、ごめんw」とごまかして電話を切った。

その部屋とMの自宅とは、8kmほど離れている。

その後もいろいろとイヤなことが起こった。
最終的に「ほんのり」では済まなくなったので、必死で貯金して引越した。
Mにはこの話はしていない。

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