俺は高専出身で、実家から離れたくて卒業後、地方大学の3年に編入した。
地方で家賃が安めなので、今時の学生はワンルームとか結構いい場所に住む。
俺はビンボーだったので、ボロい木造アパートに済んでいて、学費や生活費もバイトで稼いでいた。
バイトPGをやっていたので時給は他より断然良かった。
勿論、便所、風呂共同だ。
アパートの家主さんは人のいいおばあさんだった。
家庭菜園で取れた野菜を玄関先に置いてくれたり、便所、風呂の掃除、玄関に置いているゴミを出していてくれたり、すごく世話になった。
そのおばあちゃんが死んだ。
正月に帰省してる間に、急逝していた。
アパートに家主が死んだ旨の張り紙があった。
その後、アパートに不思議な現象が起こり始めた。
俺は階段を上ったすぐの部屋に住んでいたが、アパート全員帰ってきてるのに階段を上る足音だけがしたり、廊下を雑巾掛けする音がしたからおばあちゃんかなと思いつつ戸を開けると真っ暗で誰も居なかったり、帰って来た時、集合玄関の靴入れの靴がバラバラだったのがスッキリしてたりね。
最後は俺ともう一人2階のヤツが居ただけで、みんな出ていってしまった。
おばあちゃんにとって俺らは孫も同然だったんだろうなと思って、今でも有難いと思ってる。
おばあちゃん、おおきにな。
追記。
靴なんか突っ込み放しな野郎ばっかりだったから他人の靴まで綺麗に並べるなんてことはないよ。
アパートに入るにはうるさい戸を開けないとダメだから、セールスとかが来たら戸をガタガタ、バタッと開閉する音がするからすぐわかる。
階段は木製だからキシむ音がするんだけど俺の部屋にはすごく響く(なんせボロアパートだから)。
だから誰かが侵入したとは考えられないんよ、コレが。
床拭いてる音で外見たのは、幽霊でもいいからおばあちゃんにもう一回だけでも会いたいと俺が思ったから。
死んでる人がソコに居るとは俺も思ってないけどね。
そのおばあちゃん、「薫」って言うんだ。
すごく良い人でカワイラシイおばあちゃんだった。
死に際に会えなかったのをすごく後悔してます。