昔、俺が友人に頼まれて電話占いをしていた頃の話。
その友人は、電話占いの広告を出していて、何人かの占い師を抱えていた。
『出来るときだけでいいから、手伝って』と頼まれ、何回かやったことがある。
まずは友人が電話をしてきて、『依頼があったけどこれからの時間出来るか?』と聞いてくる。
できるときは相手の電話番号を聞いて、コレクトコールでこちらから電話をかける。
最初に料金設定の説明をして、最後に『○○分だったので○○円を振り込んで下さい』と伝える。
依頼がくるのは、だいたい夜の十時過ぎが多かった。
職場での恋愛の話から、ディープな三角関係など、いろいろな依頼があった。
なかには『会社で隣の席に座っている男性が、自分のことをどう思っているか知りたい』
というような、微笑ましいのもある。
俺はタロットで占い、「彼もあなたのことを意識しているよ」と答えた。
電話口で喜んでいる依頼人の声を聞きながら、「ああ、青春っていいなあ」と嬉しい気持ちになったりする。
あるときは、かなりディープな話もあった。
夫がいる三十代の主婦なのだが、肉体関係だけの男友だちがいて、どうやらその男が組関係の人とつきあっているようだ、と。
しかも、お金が絡んでいて脅されているらしい。
彼がどこまで裏の世界に染まっているかを知りたいという。
タロットで占うと、かなりヤバい感じの暗示が出た。
そのカードの意味を伝え、「その人とは別れた方が良い」と伝えた。
納得できない感じだったのか、あまり嬉しくない様子だった。
そういうディープな依頼のときは、心がズシーンと重くなる。
言葉のイントネーションからして、関西方面のようだったが、関西弁でディープな話は勘弁してもらいたいと思ったよ(笑)
で、俺が電話鑑定を辞めるきっかけになった依頼がある。
それは、二十代の若い女性。
つきあっている彼が浮気をやめられるかどうかという悩みだった。
彼女は彼をとても愛しているのだが、彼はモテ男で複数の女性とつきあっているらしい。
『お前が一番好き』と言ってくれてはいるが、彼女はどうしても、他の女がいるのが許せない。
二十代の若い女性:「いつかあたし、彼を刺すかも知れない。アハハハハハハ!」
本気か冗談かわからない物騒な言葉を言いながら、高笑いしていた。
俺は「どうもその男性の浮気性は今後も続きそうだ」と伝えた。
そして、「一年後には別の男性と縁があるから、別れた方が良いのでは」と言った。
彼女は、どうしても彼と結婚したいようだったので、「結婚しても女癖は直らない」とハッキリ伝え、もう別れて新しい恋の準備をすることを勧めた。
あまり納得しない感じで後味が悪かったが、料金を伝え電話を切った。
電話を切ったあと、執念深い彼女の性格が気になった。
それから数か月後、何気なく全国ニュースを見ていたら、『二十八歳の女性が交際男性を刺殺』とのニュースが。
いつもなら、よくあるニュースのひとつとしてあまり気にもとめないのだが、そのときは胸がキューッとなる感じがあったのを覚えている。
あの時の彼女の言葉が思い出されたからだ。
『いつかあたし、彼を刺すかも知れない。アハハハハハハ!』
彼女の名前も顔も、住んでいる場所さえ知らないのだから、まったくの人違いかも知れない。
だが、その時聞いた生年月日からするとぴったり二十八歳・・・。
そのことがあって、友人に連絡して電話占いを辞めることにした。
あの事件の犯人が、彼女でないことを祈るばかりだ・・・。