掛け軸から太い腕が

小学校低学年の頃の話。

お盆の頃、うちの両親に用事があって、オレはじいちゃんの家にしばらく預けられることになった。
じいちゃんの家はド田舎。
周りは山ばっかで遊ぶトコがまったくないような辺境地帯にあって、じいちゃんはそんな辺境のド田舎で、ばあちゃんと一緒に暮らしていた。

最初、両親と離れて暮らすことに不安があったんだけど、じきに慣れて、慣れたら慣れたで、田舎生活は案外楽しかった。
ただ怖いこともあった。

夜になると、ほんとに周りが真っ暗になるんだ。これが怖かった。
だから、オレは夜になると、絶対にひとりになりたくなくて、いつもじいちゃんとばあちゃんの近くにいるようにしていた。
じいちゃんもばあちゃんもその辺りは察してくれてたみたいで、ひとりきりって状況になることはなかった。
風呂はじいちゃんと一緒に入ってたし、寝るときはじいちゃんとばあちゃんが、オレを真ん中になるように布団を並べて一緒に寝てくれた。

ある日のこと、オレはいつものようにじいちゃんとばあちゃんと一緒に寝ていた。
バサッと布団がめくれる音がして、オレは目を覚ました。
目を横にやると、じいちゃんが起き上がり、そのままソロソロと部屋を出て行ってしまった。

トイレかあ・・・・・・

じいちゃんの足音はトイレに向かってるのはわかる。
蛍光灯の薄明かりの中、さて寝ようかと布団を被ろうとしたとき、床の間に飾ってあった鍾馗さまの掛け軸が目に入った。

ギョロリとした鍾馗さまの大きな目が動き、オレを睨みつけた。
その目の迫力に思わず身体が固まると、今度は掛け軸から毛むくじゃらの太い腕がオレの頭のトコまで伸びてきて、手に持っていた刀の鞘でオレの頭をポカリと叩いた。
ここまで来るとオレも限界で、「うわああ!」って大声を出して、布団から飛び起きてしまった。

じいちゃん:「なんだ!どうした!」

バタバタと音がして、じいちゃんが大急ぎで部屋に戻ってきてくれた。
ばあちゃんも何事かと大慌てで飛び起きて、部屋の明かりを付けてくれた。
オレはじいちゃんとばあちゃんに事情を説明した。
床の間の鍾馗さまに頭をポカリと頭を叩かれたと。

じいちゃん:「ああ、わかった。ちょっと待ってろ」

じいちゃんは床の間に飾ってある掛け軸を床の間から外してくれた。
オレは怖くて仕方なかったから、じいちゃんが床の間の掛け軸を片付けてくれている間、ずっとばあちゃんに抱っこしてもらい、絶対に床の間を見ないようにしていた。

片付けが終わった後、オレはじいちゃんとばあちゃんと同じ一緒の布団で寝ることにした。
怖かったけど眠気には勝てなかった。
オレは直に眠ってしまった。

次の日、じいちゃんはえらく怒っていた。

じいちゃん:「◯◯(オレの名前)の大事な頭を叩くなんて許せん!懲らしめてやらんといかん」

じいちゃんはそう言って、オレを庭に連れてきた。
庭には、ばあちゃんがいて、小さな七輪に火をくべていた。

じいちゃん:「◯◯はソコに座り」

じいちゃんはオレが縁側に座るのを見ると、家に戻っていった。
しばらくして戻ってきたじいちゃんは、手にフライパンとクルクルと巻かれた掛け軸を持っていた。

じいちゃん:「◯◯、ようみとき、じいちゃんがこらしめてやるからな」

じいちゃんは庭に出て、七輪の上にフライパンを置くと、フライパンの中に刻んだ鷹の爪を放り込んだ。
燻され鷹の爪からモクモクと黒い煙が立ち昇ると、じいちゃんは手に持っていた掛け軸を立ち昇る煙の中に入れた。

「コホン・・・コホン・・・」

掛け軸から小さな音がした。
なんか咳みたいな音だった。
立ち昇る煙が勢いを増し、猛々とした黒い煙が立ち昇るのに合わせて、「ゴホッゴホッ!」と咳みたいな音も勢いを増していく。

突然、丸めた掛け軸がプルプルと上下に小刻みに震えて、掛け軸の穴から、細長い灰色の毛をした生き物みたいなのが出てきた。
それがポトリとフライパンの上に落ちると、ビョンと飛び上がって大慌てでどこかに行ってしまった。

じいちゃん:「◯◯、今の見たか?」

じいちゃんが縁側に座るオレを見た。
オレは首を何度も縦に振った。

じいちゃん:「イタチがイタズラしにきたんよ、もう大丈夫、これに懲りて二度と来んよ」

じいちゃんは立ち上がって、ヒュルヒュルと掛け軸を開いた。
そこには、二匹の鶴と赤い日輪があった。

じいちゃん:「鍾馗さまに化けようなんて、罰当たりなイタチやな、だからこんな目に合うんだ」

じいちゃんはそう言って、ばあちゃんと一緒に笑ってた。
オレはというと、目の前で起きた出来事があまりに不思議だったんでポカーンとすることしかできなかった。

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