遺書も何も一切なし

カテゴリー「不思議体験」

弟はかなり見える人だった。
後で知ったけど、見え過ぎて何度も死ぬ目にあったらしい。

で、小学生の頃、弟と一緒にアニメのビデオ見てたら、弟が突然横を向いて手を振った。
そっちの方向は台所、しかも電子レンジしか見えない。
思わず「なにしてんの?」と声かけたら、弟は私のほうを向いてしばらくジッと目を見てきた。
そして私の肩に手を置き、10秒くらいして「台所見てみて」と言った。

白い着物着た髪の短い少女が静かに立ってて、私は悲鳴を上げた。
弟の手が離れると、すぐにその少女は見えなくなった。

弟は「○○おばさんだから大丈夫だよ」と言い、「見守ってくれてるんだ」とも続けた。
後で知ったが、父の姉が○○という名前で、ちょうどそのときの私たちの年頃に交通事故で亡くなったらしい。
ただ父も祖母(祖父はすでに他界していた)も弟には話したことがないと首を傾げていた。

弟は「本人から聞いた」とあっけらかんとしていた。
後にも先にも、私ががっつり幽霊を見たのはそのときだけだった。

しばらくして、弟が交通事故にあった。
数箇所骨折し、一ヶ月程度の入院を余儀なくされた。
お見舞いに行った際、両親が医者に話を聞きに行ったとき弟がぽつりと言った。
「○○おばさん、やっと居なくなったね」と。

・・・どうやら、守っているんじゃなくて私に憑いていたらしい。
弟曰く、最初は本当に見守っていた。
だがブラコンだった叔母は、仲のいい姉弟を見て姉の私に嫉妬を感じ始める。
そこで段々危ない存在になってきたので、私の代わりに弟がその呪い?をわざと受けたらしい。

弟が事故にあったとき、元々は私が行く用事を弟が代わりに行ってくれたのだ。
「俺に憑いてるほうが怖いから大丈夫かなって」と弟はのんびり言った。
弟がよく見えるのは主にそいつのせいで、弟自身が用済みになるまでは守ってくれると約束していたらしい。

そこまで話して弟は口をつぐんだ。
「俺は多分、これのせいで早死にするけど、姉ちゃん守れてよかった」と小さく呟いた。
小4が何言ってんだ、と思いながらも私は何故か泣いた。

ちなみに去年、弟は23歳の若さで自殺した。
遺書も何も一切なし、高卒で働いていて数年勤めた勤務先での評判もよかったし、対人関係も悪くなかった。

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