幽体が突き出してるような姿

家族で飲食店経営してた頃の話。

常連の芸能人の隠れ家的店ってことで紹介されて以来、本人さんとその連れてくるお友達目当てに、地元だけでなく方々からお客さんが来るようになった。
ここまでなら美味しい話なんだが、それひっついてるものもよく置いていかれるようになった。

俺は不運なことに、見聞きが出来てしまう。
もっとも、100回遭遇してもはっきりとしたのは1回くらい。
大抵は姿はぼやけすぎでわからないし、はっきりと声が聞えることもない。
逆にそのほうが怖いので、はっきりとした姿が見えたり、『死のうよ』とか囁いているのを聞いたりすると、逆に落ち着いた気分になれてた。

その客が入ってきて、染み付いた癖で「いらっしゃーやせー」と営業スマイルしたんだが、視界にいれなきゃよかったと後悔した。

客の体は、犬やら猫やらイタチやら猿やらの幽体が突き出してるような姿だった。
本人はなんともないみたいで、座敷席の衝立の向こうを覗きこんだり、一緒に来た男性と「ここって芸能人よくくるんだってー」みたいにして話してる。
けど突き出た動物の顔という顔は右に左に首をふるようなかんじで揺れて、目に入ったもの全部睨みつけてるかんじで、ヴォオオという感じの、声ともなんともいえないものがずっと聞こえてた。

二階からは、うちの犬が怯えきった声でひゃんひゃん鳴く声が響き続けた。
そのお客さんのお会計の時、隣の番地の住所が記載された名刺を渡してきて、「うちは躾もやってるんですよ。鳴き癖噛み付き癖等あったらよろしくどうぞー」と。

『いや、お前そのくっついてるやつ躾けろよ』と言いたかったよ。

ペットショップなんちゃらと書いてあったので、合点がいったかんじ。

命を売り買いする商売ってのも業が深いものなんだなあと思って、以降ペットを買うっていうのも同じように思えて、うちの犬が死んだら二度とペット飼うものか、なんて思ってたんだけど。

やつは死後も二ヶ月くらいは、生前のようにかーちゃんの後をついてまわって、生前のバカ犬ぷりをそのままに餌のおねだりをしていたよ。
それ見てると、愛してやればいいのかなと思えたので、以来代替わりのたびに、例の名刺の店から迎えるようにしてる。

合言葉は「売れ残っちゃいそうな子」。

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